エッグスタンド〜One party〜-3
「ん〜〜、もうちょっと…」
「もういい」
渋い顔で抵抗するコイツをズルズルと引きずり、出入口まで戻った。
「あんな場所にいつまでも居ると、“アッチの住人”に引き込まれるぞ」
「アッチの住人って?」
「ああいう場所から飛び降りた人間だ。そいつらが、仲間を求めて引き込むんだ…」
沙那は、オレの話にケラケラと笑いだした。
「薫ってさ、そんなオカルトめいた迷信を信じてるの?」
「信じちゃいねえよ。だが、オマエには当てはまりそうだと思ったんだよ」
「違うよ。人は自分の意志で飛ぶんだよ」
そう答えて彼方を見つめる横顔は、別の人間を見ているようだった。
「じゃあ、そろそろ帰るぞ」
「エッ、もう?」
「もう!」
沙那は名残惜しいとでも言いたげに、先ほどまで居た場所を見つめている。
「んー、もうちょっと」
「ダメ、諦めろ」
こんな所に放っといたらコイツは本当に飛んじまいそうだ。オレは細い腕をしっかりと握り、屋上を後にした。
「もうココには来るな」
「エーッ、たまにはいいでしょ?」
階段を降りながら注意すると、沙那は拒みながらも明るい表情だ。
「だったら、ひとりで行くな。行きたい時はオレに言え」
「……監視付きか…」
オレのとなりで、ため息を吐く音が鳴る。
「タマゴはなんで不安定なんだろうね?」
繰り返される質問。コイツはオレに何を知らせたいのだろう。
「オマエがタマゴになりたいのか?」
「タマゴは黄色だけど、人間の私じゃケチャップ・ライスかもね」
「ブラック・ジョークだな…」
オレ達は長い階段を降り、ようやく地上に着いた。とりあえずコイツが飛び降りるのは防げた。
先ほどまで居た場所を仰ぎ見る。下から見るとかなりの高さだ。
電車を乗り継ぎ、10分ほど歩いて沙那を自宅に送り届ける。
「明日も学校に来るんだぞ」
オレの言葉にコクリと頷くと、クルリと踵を返して玄関むこうに消えた。
「タマゴか…」
独り言が口をつく。ため息をひとつ吐き、オレは帰路についた。
…「エッグスタンド」〜One party〜完…