エッグスタンド〜One party〜-2
「だったら、早朝とか人の居ない時刻を選ぶべきだね」
「何か言われたのか?」
唐突なオレの質問に、沙那はしばらく固まった。が、すぐにとぼけた様子で、
「ん〜…特に無いんだけど」
「ウソつけ、思い切り暗い顔してんじゃねえか」
オレの顔を見てにっこりと笑った。
「薫ってさ、よく私のこと分かるよね」
その顔と声にオレはドキリとしたが、あえて無視した。
「オマエと何年付き合ってると思ってんだ?もう、10年だぞ」
「そう言えば、保育園からだったね」
「おまけに小、中学校も同じクラスだしな」
襟元までの短い髪が風で乱れる。オレは沙那の頭に手を置いた。
「何を言われたか知らねえが、そんなモンは不当な評価だよ」
「正当な評価って?」
「オレが知ってるオマエだ」
ポンポンと頭を叩くと、沙那は呆れた顔をしてから含み笑いをオレに向ける。
「案外、薫の知ってる私ってさ、少ないかもよ」
「それでも、オレ以上に知ってるヤツはいないさ」
オレは赤面しそうな自分をごまかす様、沙那の髪をクシャクシャに撫で回した。
柔らかい表情はそのままに、俯くと又、下を覗き込む。
「“あの人達”も同じような事を言ってた…」
あの人達…コイツは自分の両親をそう呼んでいる。いつの頃からかは憶えてないが…
「やっぱり何か言われたんだな?」
聞いても、なにも答えない。
「タマゴはさ、なんで不安定なんだろうね…?」
いつもの様に、無視して自分の世界に隠ってしまう。
仕方なく、オレはしばらくコイツに付き合うことにした。
「形が丸いからだろ」
「それだけかな?」
「そもそも、どこからタマゴの発想が浮かんできたんだ?」
「だって、私、オムライス好きだし…」
「そのタマゴと屋上がどう結びつくんだよ?」
「ん〜、似てるかなあって…」
そう言って笑みを浮かべているが、そんなモノはごまかしに過ぎないことは知ってる。
「こっから落ちたらさ。薫は泣いてくれる?」
そして、時折みせる本音に怒鳴りつけたい衝動に駆られる。
オレは、深いため息をひとつ吐いて沙那を見た。
「仮定の話はするな。それに、オマエはここから落ちたりしない」
「そりゃ分からないよ。タマゴみたいにバランス……」
「もういいよ。ホラ、立って」
オレは立ち上がると、沙那の腕を掴んで身体を引張った。このまま放っとくと、本当に向こう側に行っちまいそうだから。