春に囀ずる-1
じれったくなるほど、ゆっくり近づいてくる顔にうっとりする。
ハルとのキスはいつも静かに穏やかなまま、とても長い。
舌を絡めたり、激しくはない、くちびるをあわせるだけのウブなキス。
名残惜しいのに、引き留めたくなるくらい、後ろ髪ひかれるみたいに、ゆっくりゆっくり離れる顔は…やっぱり見惚れる。
「紗英さん。じゃあね」
「あ、なかでお茶」
「ヘーキ。今日やっと定時でしょ?ゆっくり休んでよ。またね」
わざわざ待ち合わせてまで仕事帰りの彼女を家まで送ってくれるイイ彼氏。
なのに引き留めても、あがらないで帰っちゃう彼ってどうよ。
しかもハルとは、アレだけ。
もう三ヶ月も、ヤサシイだけのキス。
私はまだ、ハルに抱かれていない。
何しろ、ハルの舌の味すら知らない。
5つも年下なんだから、いっそ若さが暴走しちゃって獰猛に貪って欲しい。
それとも、ハルは……私なんかじゃイヤかな…
もうウブでプラトニックなはずのキスだけで、私の体はぐしょぐしょ。
玄関でヒールを脱ぐのにすら、くちゅんっ…なんて音が響いちゃう。
一人ぼっちの部屋はひんやりして冷たいのに、私の体はすごく熱い。
リラックスウェアに着替えながら、ストッキングを脱ぐのに…ホントどうしてくれよう、ハルのバカ!ヘタレ!
あんなキスでストッキングまで濡らしちゃうくらい好きで好きで、……ハルが欲しい。
スウェットの間から、下着をくすぐるように触りながら、指先で撫でまわす。
下着は濡れて、ぴったり肌に貼りつくようにして形をあからさまに伝えてくる。
ハルは……どんな触り方なんだろう。
キスとは裏腹にいっそ怖いくらい激しく愛してくれるのかな。
………淡白につれなく帰ってしまう姿のようにあっさりしてたらどうしよう。
それでも夢中になって欲しい。
取り乱してがっついて、ずっと欲しかった、って私と同じ気持ちが欲しい。
下着のうえから、窪みに指を重ねた…だけ。
くすぶった熱はあっけないくらい気持ちと一緒に覚めて、気持ちの隙間に冷たい何かが通りすぎてく。
「は、る…ぅ」
床にくずれるようにへたりこんで、泣くのを堪えて荒くなる息が穏やかになっても、ハルの顔が浮かぶだけで子宮がきゅーってなる。