二個目の苺〜アーモンドクッキー〜-9
「…畜生ッ!」
まだ少し残っているブランデーの瓶を思い切り振り上げる
一瞬周囲の音が消え…耳をつんざく嫌な音と共に、赤い液体が飛び散った
周囲に散らばった破片に気を留めずに座り込み、ナイフの様に尖った割れた瓶を月の光に透かす
「…ざけんじゃねぇよ」
そのまま一気に左腕に振り下ろした
痛みはなく、血が勢い良く巡っていくのが分かった
傷口から流れ出た血が、ぽたぽたと音を立てて下に落ちていく
その赤を、不思議な気分で見つめる
…浅いな
結局、こんな浅い傷しか付けられないんだな…
気味が悪い…
…思いに反して自分を守るこの手…
***
愁さん…やっぱり変だった気がする
どうしたんだろう…
「…ちゃん、お姉ちゃん!」
「っえ!あ…何?唯」
「どしたの、ぼーっとしてぇ〜?あ、分かった!色ボケってやつだ!」
唯が、嬉しそうに手を合わせる
「色ボケは唯の方でしょ…まったく」
妹の唯は、昨日も恋人の竜さんと長電話をしていた
…そうだ
電話、してみようかな
顔が見えないから、いつも言えないことも言えるかもしれない
時計を確認して、席を立つ
「ごめん、ちょっと…電話してくるね」
「あら?まだ食事中なのに…奈々が、珍しいわね」
母は行儀が悪いと怒らずに、驚いた顔をしている
「わーいっじゃあお姉ちゃんのエビフライもーらい!」
唯は大喜びで箸を向ける
本当に…うちの妹は…
「いいわよ…あげる」
大きくため息をつくが、唯はそんな私の様子を少しも気に留めない
再び小さく息を吐いて、食卓を離れる