二個目の苺〜アーモンドクッキー〜-16
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…父は仕事熱心な男だった
詳しくは知らないが、相当稼いでいるだろうと家政婦が言っているのを聞いたことがある
どんな父であっても、ほとんど帰って来ない男に対して父親だという感覚は持てなかった
帰って来ると僕の頭を撫でて、「お前は優秀だから心配していないよ」と言った
母はある種、少女のような女だった
父が帰って来ない日は、いつも泣いて僕を抱きしめた
「愁、寂しいよ」
「なんであの人帰って来ないの?」
「きっと外に女がいるのよ」
「悔しい、子供を産めば…いつも一緒にいてくれると思ったのに」
母が泣く程、次第に冷めていく自分がいた
自分のことなんて見ていない母を見ても、寂しさよりも馬鹿馬鹿しさを感じた
あの父の嘘くさい優しさで機嫌が良くなる、なんてかわいそうな人だろう
…しかし、ある日を境に、母がよく笑うようになった
いつも妙に機嫌が良く、気味が悪い
服装は派手になり、化粧も濃くなり、外出が増えた
「愁、聞いて」
「本当に本当の運命の人を見つけたの」
「お母さん、やっと幸せになれるのよ」
「とても優しい人でね…」
全部、僕に報告してくる
…ペットみたいなものか
聞いていても聞いていなくても関係ない
あんたのおかげで、女の嫌な所が全部分かったよ
…ある寒い日に大きな荷物を抱えて、母は出て行った
父は、「他に男が出来たんだろう」と、何の興味もなさそうに言った
周囲の反応で、相手は金持ちだと想像出来た
しかし-----
---僕はなぜだか分かった
母は金に釣られた訳ではなくて、安っぽい「愛」に釣られたんだと
偽物の言葉、心のない抱擁…嘘は簡単なのに
…唐突に、玄関から父の声がした
「何の用だ?ここはもうお前の家じゃない」
「どいてっあたしの部屋に通して」
叫ぶ様に言葉を発しながら、母が僕の部屋に入ってきた