ボールペン-1
一
俺は道ばたで、ある一つのボールペンを拾った。正直、どこにでもあるようなボールペンだったし、捨てようかとも思った。でも、捨てなくてもいいか、ということで、家に持ち帰った。
家に帰るなり、冷蔵庫からビールを取り出す。ぐびぐびと勢いよく流し込みながら時計を見る。すでに6:54だった。急いで晩飯をつくろうと、再び冷蔵庫を開けた。見るとチャンポン麺があったので、焼きそばをつくることにした。冷蔵庫から、麺とソースを取り出し、野菜室を開けてキャベツをとる。材料を全て持ち、キッチンへ向かい、フライパンにサラダ油を流し込む。そこで、ビールをリビングに置き忘れたことを思い出し、すぐさま取りに戻る。取りに戻ったときに、今日拾ったボールペンが目に入った。まぁ、目に入っただけなのでまたキッチンに戻った。
できあがった焼きそばを頬張りながら、リモコンを探す。ソファーに埋まっていることに気付き、とろうとした。するとそのときに、焼きそばの麺が一本落ちて、ソファーについた。一旦ソファーに落ちた麺はそのままズボンに落ちてきた。ズボンとソファーが同時に汚れ、少し腹が立った。麺をゴミ箱に捨て、ティッシュで拭いた。多少汚れが残っているが、無視して食べ続けた。食べ終わった後、食器を洗い場に持っていき、水で軽く流す。またリビングに戻り、ビールを一気に飲み干す。空き缶を捨て、寝室に入った。そして、いつものように日記を書こうとしたとき、あのボールペンを使おう、ととっさに思った。リビングに戻り、ボールペンを手にすると、寝室に戻り、日記を書き始めた。すると、何故か書けない。おかしいなと思い、もう一度書いてもやはり書けない。ま、落ちていたものだし、と開き直った。そして、他のボールペンを取り出し、再び日記を書き始めた。
書き終わったあと、今度はスケジュール帳を取り出した。今日は月の終わりのなので、次の月のスケジュールを書き込まなきゃならない。ぺらぺらとページをめくり、来月のページをめくる。ここに、予定をはめ込んでいくわけなのだが、ここで、さっきのペンを思い出した。見るとやはりインクは残っている。さっき、インクが目に入ったので不思議に思ったのだ。幸二はペンを手に取り、おもむろに予定を書き始めた。するとどうだろう、先ほどまで書けなかったあのボールペンが、黒い線を描き始めた。まぁ、驚いた。しかし、こういうことはよくあることなので、すぐに気持ちは元通り。そのまま予定を書き続けた。すらすらと書き続け10分ぐらいが過ぎた。30日を書き終えてから、ペンを置く。一つ落ち着いてから冷蔵庫に向かう。またビールを手に取り、部屋に戻り椅子に座った。ふと机に目をやると、さっきのペンがない。不思議に思った。そりゃそうだろう、この部屋には誰もいないのだから。あれ、と思い机の下を見ると、そこに転がっていた。さっき落としたのかと拾い上げ、椅子に腰をかける。
気付けば、なんだかさっきからこのペンばかり気にかけている。らしくない。そう思いつつもそのペンが気になり、「あ」と一つ書いてみた。すると、どうだろう。全然書けやしない。インクもあるし、さっきかけたから書けないはず無いだろう、ともう一度書くも書けない。さすがに不思議に思い、ゆっくりと考えた。日記は書けなかった。でも、スケジュールの時には書けたんだ。何かあるはず。最初からゆっくりと考えた結果、ピンときた。そして、幸二はノートに、〔明日二時半に雅也がこける〕と書いた。雅也とは友人のことで、幸二の唯一の親友だった。