崩壊〜出会い〜-1
16年前。
公園に若い男女の姿。
普通なら、何の変哲もない光景なのだが彼らは違っていた。
この場所に居るにしては、表情が深刻過ぎる。
「その…昨日の件だけど…」
男が口を開く。その口調は、何とも言い難そうだ。
「…に、妊娠したんだって…?」
男は女に訊ねた。まるで、嘘であってほしいと言いたげに。女は俯き、黙ったまま頭を深く垂れた。
「昨日、病院に行ったら…およそ10週目って…」
女は、震える声で呟いた。
胸元までのストレートヘアーで顔は隠れているが、ダウンベストやパーカー、ショートパンツが若さを強調していた。
「…で?どうするんだよ…」
男は、女の言葉に狼狽したように目を泳がせて訊き返した。
ジャケットにジーンズという男のいでたちは、女よりも幾分、年上と思われる。
男は国立〇〇大学法学部4年生。女は大学受験を控えた高校3年生。
女は、硬い表情のまま自分の思いを男に訴える。
「…私、生むわ。貴方に迷惑かけないから…」
「め、迷惑掛けないって……?」
男は、うろたえた表情で訊き返す。が、女は笑顔を浮かべていた。
「貴方に強要はしない。私が、子供を欲しいのよ」
現役大学生の家庭教師と受験生。いわば、先生と生徒の関係が男と女の関係に変わっただけのよく有るパターン。
2人は別れた。男は、一般企業へと。そして、残された女は、人知れず子供を産んで大学へと進んだ。
そこから時は流れた。
『崩壊』
「では…そちらのベッドに横になって…」
アイボリー色と柔らかい照明に囲まれた清潔そうな室内。一見すると心地よい雰囲気に包まれた空間。
とぐろを巻いた異様なモノを除いては。
トレイに置かれたファイバー・スコープとディスプレイのそばで、桜井涼子は水色の検査着に着替えた患者に声を掛けた。
「…先生、よろしくお願いします」
患者は、不安な面持ちで言われたままにベッドに横たわる。