崩壊〜出会い〜-5
「…な、なにか?」
「確かに、私は貴方の叔母だけど、そんな言い方やめてよ」
「じゃ、じゃあ何て呼べば?」
「普通に“涼子さん”にして」
「じゃあ…涼子さん…」
「ヨシッ!」
返事をする涼子は、慈愛に満ちた表情を浮かべる。が、仁志には、意味が分からなかった。
何故、彼女が、こんなにはしゃいでいるのかを。
「じゃあさ、さっそく始めましょうか?」
仁志の中で不安が広がる。
「…あの…よろしくお願いします」
「まず、ズボン脱いでくれる?」
「はいぃ?」
涼子のひと言に、仁志の不安は驚愕に変わった。
「仁志は?どうしたんだ」
溝内家では、入浴を済ませた父親、真仁が、見当たらない息子の姿を探していた。
「あの子、涼子さんの家に行ってるわよ」
妻の優子は、忙しくテーブルに夕食の料理を並べながら、真仁の問いかけに返答した。
「涼子さんの家って?何故」
「ほら、あの人、お医者様でしょう」
優子は朝の経緯を話し、何故、仁志が涼子の元へ行ったのか説明した。
しかし、聞かされた真仁は複雑な表情を浮かべた。
「…診てもらうのは良いが……大丈夫なのか?」
「今朝、涼子さんに電話したら、すごく嬉しそうで…そうなったら断れないじゃない」
そう言って、ため息を吐いた優子の眉間には、シワが刻まれていた。
「…親子の再会が、こんなカタチで…」
真仁が思わず漏らした言葉。
「あの人は母親じゃないわ!あの人は、私達と約束したのよ」
悲鳴のような声だけがキッチンを支配した。
「あ、あの、脱ぐって、どういう意味です?」
不安いっぱいの仁志は、焦った顔で問いかけた。対して、涼子は含んだ笑みを浮かべている。
「今からディスポーサブル器を、貴方の肛門に入れるのよ」
「な!ど、どうして!?」
「要は浣腸して、排泄物を採取するの。先刻、言ったんじゃない」
「何だよ!それ!」
もはや、敬語を使う余裕も無い。
涼子の話では、潜血便なのかを調べるために排泄物に血液成分の一種である、ヘモグロビンの有無を調べる必要が有るそうだ。
「理由は分かりました。だけど、ここでズボンを脱ぐ必要ないでしょ?浣腸なら、トイレで自分でやりますよ」
あくまで拒否しようとする仁志。が、その言葉を聞いて、涼子はニヤリと笑った。