崩壊〜出会い〜-3
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「…ふ……ん…」
溝内仁志は、朝のトイレに時間が掛っていた。
「…仁志、早くなさいよ」
あまりに遅いので、母親の優子が声を掛ける。
「…分かってるよ」
仁志は、答えながら自らの排泄物を見てため息を吐いた。赤茶色のソレは明らかに異常を示していた。
優子は、朝食のご飯と味噌汁をテーブルに置くと、暗い顔で戻って来た仁志に問いかける。
「どうしたの?そんな深刻な顔して」
仁志は、考えあぐねた挙句に優子に相談した。
「…オレ、高校入学してからこっち、腹の調子がおかしくてさ…」
「おかしいって、どんな風に?」
意味が分からない優子は、さらに訊ねる。すると、仁志は少し表情を硬くして答えた。
「…なんだか、便に血が混じってるようで…赤い色なんだ」
その途端、優子は表情を曇らせた。高校入学してからとなると、1ヶ月は経つ。
「だったらさ、涼子おばさんに頼んでみましょうか?」
「…ああ、あのおばさん、医者だったよな」
「そう!たしか肛門科だったわ。行って来なさいよ」
優子は明るい表情で答える。が、仁志にとっては苦い思いがよぎった。
涼子とは冠婚葬祭以外で会ったことはないが、とても大人の女性を感じさせる存在に思えた。
30代半ばで、凛とした顔立ちとスレンダーな体躯。そんな人に自分の醜態を晒すのはイヤだった。
そんな仁志の複雑な感情も優子は汲み取ることも無く、“電話しておくから”と言うと、電話口へと向かった。
「…あ、涼子さん?溝内ですけど。おはようございます!ごめんなさいねえ、朝早くから……」
(…まいったな…人の気も知らないで…)
楽しげにお喋りする母親に、心の内で舌打ちする。が、仁志自身、体調のことはずっと気に掛っていたので、ちょうど良い機会だと思い直した。
「……では、ごめん下さいませ…」
受話器を戻す音とともに、優子が小走りでキッチンに戻って来た。
「…どうだった?」
「それがねえ、今夜にでも自宅の方に来なさいって…」
「自宅!?そりゃどういう意味だよ」
あまりの展開に、仁志は状況が掴めない。
「涼子さんの病院は予約でいっぱいらしくて。だから、彼女が自宅で診れくれるって!」
嬉しそうに喋る母親に、仁志はイヤな予感がした。