崩壊〜出会い〜-2
涼子が患者の耳元で呟いた。
「…いいですか?オシリからお腹の中へグリセリン溶液を注入しますので、30秒経ったら、すぐそこのトイレで排出して下さいね」
患者は横を向いたまま、無言で首を縦に振った。
涼子は、予め温められたディスポーサブルの丸い注入口を、患者の肛門に押し入れる。
「行きますよ…」
涼子の手がゆっくりと動いていく。患者の体内に、100ccほどのグリセリン溶液が押し込まれた。
「…く…う…」
ディスポーサブルの先端が肛門から抜かれた。途端に患者は、苦し気な顔を浮かべた。その顔を冷やかな目で涼子は見つめている。
「…20…25…どうぞ、トイレに行って下さい」
涼子の声を聞いた瞬間、患者は脱兎の如くトイレへと駆け込み、グリセリン溶液と一緒に残った排泄物を流し出した。
それから数分経ち、戻って来た患者の肛門にファイバー・スコープが入れられ、肛門から大腸にかけての検査が始まった。
直腸からS字結腸を通り、回盲部へ。直径1センチほどのファイバーをゆっくりと送りつつ、涼子によって手元のハンドルが巧みに操られると、ファイバー先端は生きているかのように上下左右へと曲がり、粘膜を傷付ける事なく中の様子を映し出す。
「…ここ、小さなポリープが出来てますね」
涼子は、腸内を映し出したディスプレイを患者に見せながら、状況を説明する。
「…これ、採取して生検(生体細胞検査)しますね」
涼子の操作で、ファイバー先端からワイヤーと鉗子が伸びた。
ポリープの根の部分にワイヤーを通し鉗子で掴む。ハンドル部のボタンを押すと、ワイヤーに流れた高周波によってポリープは焼き切られた。
「もう終わりますよ」
ワイヤーを先端に収納すると、鉗子にポリープを掴んだままファイバーを引き抜いた。
「お疲れさまでした。検査結果は後日お伝えしますので…」
検査の様、それは老若男女なんら変わりない。皆が涼子の前で恥ずかしさを晒け出していた。