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『砦』
【大人 恋愛小説】

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『砦』-1

それは6月のことだった。
昔付き合っていた男からメールが来た。

[久し振りに会いませんか?メシでもおごるよ]

どういう意図なのか、わからなかった。
あたしが生まれて初めて付き合ったその男は、高校の時からの友人で、大学も一緒だった。大学に入学して程なく、そいつから告白され、1年と半年付き合い、こっちがフラれた。
「やっぱり友達だよな」と言われて。
もちろん、ショックだった。泣いてみっともなくすがった。錯乱の余り、遊びでもいいから別れないでくれとお願いした。

―…恥ずかしい奴。

振り返るとカーッと熱くなる。

同じ学校なものだから、別れを宣告された後も何度か顔を合わせた。時が経ち、気持ちが落ち着いた後は短い挨拶を交わせるようにはなったけれど、あたしはまともに顔を見ることができなかった。

もう一度メールを読む。
別れてから一年と半年経つ。
―いつまでも気にしてるほどおセンチじゃないけどね…。
奴と別れてから二人の男と付き合った。今はもう想う気持ちは微塵にも残ってはいない。
しかし、心のどこかで動揺しているのは確かだった。
脳裏に、ある女の顔が浮かんだ。
―あの子とはもう別れたのかな…。
あたしと別れて、1か月して付き合いだしたあの子。
奴と同じサークルで、地味な印象のあの子。
―あたしよりかはあの子の方が魅力的だったんだ、ヒロアキには。
自分が上等な女だとは思ってはいないが、それでもやっぱり自尊心は傷ついた。

携帯のアンテナを唇に当てて考える。
―別に何もないでしょう。
「OK」の返事を出した。

「カナエちゃん、こっち―」
待ち合わせの場所はあたしの自宅近くの本屋。昔、付き合っていた頃もよく待ち合わせの場所として利用していた。
「久し振り、ってのも変な気がするな。学校は同じなのにな」
学部の違うあたしたちは、四年生になった今、研究室にこもりっぱなしになるので、なかなか校内で会う機会は無くなっていた。
「元気、してた?」
「ああ。相変わらずだよ」
どれぐらい振りになるのか、あたしはひどく久し振りにヒロアキの顔を見たような気がする。いや、実際そうなのだ。
ああ、ほんとに変わらない。
シャツとジーパンのラフな格好。昔から洒落っ気はなかったが、別れた後も寸分違わない。
「どこがいい?何でも言ってよ。バイト代入ったばっかだからさ」
「んー、まかせる」
「じゃあ、国道沿いのレストランにしとくか」
本屋を出、駐車場へ行くと、何度も乗ったヒロアキの車が目に付いた。これも相変わらず。
「じゃ、いくか」
「うん」
車が動き出した。


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