「demande」<槙惣介>-3
『…………はい』
「demandeから参りました。槙 惣介と申します。天館七香 様でいらっしゃいますか?」
『……………』
………………?
「あの……」
『………………ハァ…』
え?
『…………どうぞ』
なぜだろう…。指名されたのに歓迎されてない気がする………。
重たい門扉が自動で開く音は、重厚感の中に威圧感を感じる。
玄関の前までくると、ドアが少しだけ開いていて、中の明かりが漏れていた。
しばらく様子を見たが「少しだけ」から進展する気配がなかったので、惣介は恐る恐るドアを開けた。
広く、明るく、開放感のある玄関……には誰もいなかった。
えっと……
俺はどうしたら……?
ここだけで6畳はありそうなだだっ広い玄関…。この家のどこに依頼人がいるというのか。
しゃーねーなー……
「失礼いたします!demandeから参りました、槙 惣介と申します!
天館 七香 様はいらっしゃいますでしょうか!?」
元々大きい惣介の声がかなり響いたので、七香は慌てて部屋から出てきた。
「……っ!大きな声出さないでちょうだい!!」
「失礼いたしました。七香お嬢様でいらっしゃいますか?はじめまして。demandeから参りました、
槙 惣介と申します。本日はお時間の許す限り、お嬢様にお使えしたいと思いますので、
よろしくお願いいたします」
面食らったような顔をして、七香は惣介を見つめる。
黒のモーニングに…黒いベスト…黒のタイ…黒の靴…白い手袋…
…最近のホストって…芸が込んでるのね…。
「せっかく来てもらって悪いんだけど、今日あなたを呼んだのは私じゃないの。
伯母が勝手に私の名前であなたを予約したのよ。無断でね。
だから…私の預かり知らないことなので、帰っていただける?」
か、帰れ??
坦々としゃべってはいるが、明らかに憤慨している彼女を見ていると、
本気で帰ったほうがよさそうだな…と惣介は怯んだ。
が、もうすでに支払いが済まされているため、黙って帰ることはできないと思い直す。