私の存在証明B-3
「……見つけなくちゃ」
川沿いのこの通りは、道を外れると数メートルのなだらかな坂があり、草花が生えている。そしてその横にはすぐに川。
恐らく事故現場で落としたのだとは思うけど、細かい場所は全く見当がつかない。だからといって諦めるつもりは毛頭ない。
―――必ず見つけるからね、奏太。
風が吹く度に、ザアッと草が風になびく音がする。
私はその草の根を掻き分けながら、当てもなく探し続ける。
辺りは暗く、地面すらもうまく見えない。手が汚れ傷つくことも厭わずに私はひたすらに地面を這うように探した。
そこら中に生えた草を、一本一本かき分ける。
それは途方もない。そんな事は分かっている。けれど、私に今出来ることは無力に祈ることではない。
―――諦めない。
どれくらい探していたのだろう。気がつけば地面を隠していた闇が消え、手元が明るくなっていた。いつの間にか空は白み、朝日が顔を出しすべてを照らし始めていた。
「もう朝………あれ?」
太陽の光に思わず顔をあげると、あと数センチで川という距離で何かが太陽の光を浴び、光ったのが見えた。縋るような気持ちで、私はその場所に駆け寄った。
「……あった」
それは紛れもなく、奏太がくれた指輪。
少し泥に汚れてしまったけれど大丈夫。奏太の思いは褪せることなくキラキラと輝いている。
私は指輪を握り締めた。もう、絶対に離さない。
「いたっ!」
不意に声が聞こえ、人影が見えた。
「俊博さん?」
遠くから現れたのは俊博さん。後ろにはお母さんも見える。俊博さんは手を振りながら、大きく口を開けて叫んだ。
「遥香ちゃん!奏太手術成功したよ!もう大丈夫だから、安心して」
その言葉が耳に届くと、私は指輪を握る手に更に力を込めながら、ゆっくりと噛み締めるように呟いた。
「……良かった」
「ずっと探してたんだよ。こんな所で何をしていたんだい?」
「えっと、その、探し物があって。でも見つかりました」
「そうか、見つかってよかったね」
「はい……とても大切な物なので良かったです」
俊博さんが喋りながらこちらに歩み寄る。
私はそれに応じようと立ち上がろうとして……急に眩暈が襲った。
指輪を探す為にずっと下を向いていたから、立ち眩みだと頭では理解してるのに、私の体は後ろに倒れ、なすがままに川へと―――……