私の存在証明B-2
あぁ、そうだ。この光景はあの時と一緒なんだ。
私はお父さんの事故当時の記憶を巡らせた。
当時、深夜病院に呼び出された私達。
誰も彼もが動揺している中で、ただ知らされたのはお父さんが事故にあったという揺るぎない事実のみ。
お母さんは泣き喚き。それをおばあちゃんが慰める。私はただ両手を堅く結び、祈ることしか出来ず。
そうしてお父さんは結局―――……
そこまで思い出し、背筋に身を凍らすような寒気が襲う。
「奏太はきっときっと大丈夫」
自分自身に言い聞かせるように私は呟く。
悪い方に考えないように、頑丈だからと胸を張って笑う奏太を思い浮かべる。けれど、同時にフラッシュバックするのは血を流し、動かない奏太。
「大丈夫……大丈夫だと言ってよ、奏太」
震える両手で顔を覆い、心を静める。それから両手を口に当てて深呼吸を一度して―――……
「嘘……」
それに気がついた時、私は思わず椅子から立ち上がってしまった。
動転していた所為で全く気がつかなかったけれど、私の手には在るべきものが無くなっていた。
奏太は私の指のサイズを知らなかった。だから私には少し大きかったソレを指には嵌めず、片手に持った。そう、片手に持っていた筈なのに……
「……指輪」
奏太から貰った指輪が―――ない。
「遥香ちゃん!」
俊博さんの声を無視し、奏太のいる手術室に背を向けて、私は無我夢中に駆け出した。
事故現場は未だにパトカーが停まっていて、禍々しい雰囲気に包まれていた。
ライトによって照らされた地面には、車の部品の一部だろう。様々な破片が至る所に飛び散っていた。そして、目に付くのは地面に残った真紅。奏太の鮮血は今も残っていた。
前がひしゃげた車体は、最終的にガードレールに衝突し運転手がいないまま、ひっそりと佇むように停まっている。
それは悲愴としか言い様のない状況で。私はそこから目を逸らし、直視出来なかった。
飲酒運転だと俊博さんは言っていた。
警察に事情を聞かれたけれど、錯乱していた私は、何を聞かれたのかさえ思い出せない。
周囲を見る余裕すらなく、ただ目を閉じたきり反応を示さない奏太しか見えていなかった。
そう、動かない奏太に。