マラソン-5
五
恵斗がハッとなった瞬間には、もうすでに〔第四区間 スタート地点〕の看板が目の間に置いてあった。
恵斗は、自分の足の痛みのことも忘れ、昔の想い出を一人思い出していた。
〔第四区間 スタート地点〕の看板を通り過ぎ、また“ガチャリ”と音がする。それと同時にタイマーも20:00に戻った。
『恵ちゃん、、、、あと一個だから、、、、、でも、無理しないでね。』
ここに来て俺の心配か。もう今さら心配したところで俺がどうかなるわけじゃない、と心の中で呟いていた。
ここで、先ほどまでアスファルトだった道が、また泥沼の道に早変わり。止むことのない雨に打たれながら、土はビチャビチャと音を立てて跳ねている。
『またかよ、、、』
思わず声が漏れた。ここに来てこれは辛い。そんな感情がこの言葉から一発で読みとれるだろう。
『何も言わないで良いから、、、、聞いて。』
腕の機械から音声が流れる。
『私、あのときね、本当は圭司君と付き合いたくはなかった。』
こんな時に何言ってんだと思った。しかし、恵斗はしっかりと聞いていた。
『恵ちゃんと付き合いたかったよ。なのに、、、、、、、なんで無理矢理押しつけたの?』
恵斗は無表情で走り続ける。
『この後、、、、、、私、圭司君と別れる。』
驚きで声を出しそうになったが、必死に黙り込んだ。
『それが、私の、、、、、、気持ちだから。』
それを聞いたとたんに、気がゆるんだのか恵斗はずっこけてしまった。
やはりこの土ではこけてしまうのも無理ない。しかし、運悪く恵斗は足を強打した上に思いっきりすりむいてしまった。
膝から血がだらだらと流れ、青ざめている。何とも気持ち悪い光景だ。
恵斗があまりにひどいこけ方をしたために、監督が近寄ろうとしてきた。そのとき
『近づくな!!』
そこにいる全員がびくっとし、監督は歩みを止めた。
『俺に、、、、、触れるなぁ、、、、、、、』
マラソンの途中で、選手に触れてしまった場合は棄権とみなされる。だから、恵斗は決して監督に触れて欲しくなかった。
だらだらと流れる血が、泥にまみれて変な色に染まっていく。ゆっくりと立ち上がった恵斗は、足を引きずりながら走り始めた。
当然他の選手は次々に抜いていく。その後ろ姿を見ながらゆっくりとカーブを曲がった。
曲がったところには〔ゴール〕の看板が見えた。
『赤城!!もう少しだ!!!がんばれ!!!!!』
監督の声援が飛んでくる。
腕の機械はすでに一分を切っていた。
何としても残り一分以内にゴールに行かなければ真理の命が危ない。それだけは何としても阻止しなければ。
必死の思いでゴールを目指す。
残り三十秒切った。ゴールは目前。
飛び交う声援の中、誰もが予想していない理由で、今恵斗は頑張っている。
十秒、九、八、七、六、五
間に合うか、すぐそこだ!!がんばれ、と自分を必死に言い聞かせた。
四、三、二
後数メートル。
一