ラブマッチ-共--1
何なんだ、お前。
「早く出てこいよ」
「もう三十分で出るからぁ」
本当かよ。その言葉これで三回目だぞ。
「どこまで洗った?」
「ん?なぁーんも」
二時間風呂にいて何やってんだお前。ある意味、神だな。
「これから洗うから、絶対入ってこないでね」
ふざけんなよ。こちとら二時間、湯を求めてんだよ。
「俺も入りてぇんだけど、一緒入っていい?」
「絶対入ってこないでっつったばっかでしょうが、ウンモ」
いや何だ、ウンモって。
「お風呂はアタシにとって天国なの。リラックスタイムなの。出来ればお風呂で昇天したいの」
二時間も浸かってりゃ嫌でも昇天するって普通。
「そんぐらい大切な大切なアタシの居場所なの。何人たりとも侵入して欲しくねーのよ。失いたくないのね、分かる?」
お前大切なって二回繰り返したけど、所詮は風呂だからな。しかもそれを居場所だなんて、どんだけささやかなんだよ。
「言わば、ここはアタシのテリトリーなわけ。あんたにしてみりゃ敵地なの」
天国からいつの間にかテリトリーに変わってるな。リラックスはどこに行ったんだよ、オネーサン。
「戦時中、敵地に攻め込めば兵隊さんはどうなると思う?」
もはや当初の穏やかさは微塵もねぇな。風呂に入るか否かも命懸けかよ。
「もし入ってきたらアタシ、あんたを迷わず殺すかんね」
あぁ、そうですか。今分かったよ。俺は食い物にも風呂にも負けてんだな、お前の中で。
「でもよ、さすがに俺だって風呂入ってさっさと寝たいんだよな」
だからって引き下がったら漢が廃る!
「…………」
「ちょ、おーい」
「…………スゥ」
ええっ!寝たのか!?まじか!?
ついいましがたまでロケランのごとく自論かましてたのに?
二秒だぞ二秒!あの早寝の達人、ノビタ君も真っ青だな。
「お〜い、まじで寝てる?」
「…………スゥ」
よし。
今の内入っちゃお。もう我慢の限界だ。