やっぱすっきゃねん!VB-9
「エイッ!くそっ!」
意を決して左手を素早く伸ばす。何とかロープを掴んだ。右手をちょっとづつ伸ばして身体を引き上げた。
「…クッ…うう…」
歯を喰いしばる。腕はもちろん、首の筋は深く表れ、胸から腹、背中まで力が入りっ放しだ。
「ああ…」
腕が震えてきた。
「ダメだァ!」
身体の力が抜けた佳代は、クッションの上に落ちた。
「…こ、こんなの…よく…」
力を入れ続けて手が震えている。胸や腹も時折ピクピクと痙攣していた。
(これをやってたら、練習時間が終わっちゃう)
佳代は、立ち上がると真柴の所に行った。
「先生、柔道部は何時までやってますか?」
「7時までだが?」
「先に残ったメニューをこなしてきます。6時半には戻りますからそれからでも良いですか?」
「…それは構わんが…おまえ、大丈夫なのか?」
真柴は逆に佳代のことを心配する。だが、彼女は退かなかった。
「今、やってみて厳しいのは分かりました。でも、トレーニング・メニューは他にもあるんです。
私は部活の時間内でなるべくメニューをこなしたいんです」
真柴は、その意気に呑まれたように頷いた。
「そうか、ウチは7時までだから、いつでも良いよ」
佳代は一礼すると、小走りで2階を降りて行った。
「澤田さん!本当にやるの?」
ネットの隙間を進みながら、葛城が声を掛ける。彼女も心配していたのだ。
「もちろんです!」
「でも、今のを見ても、女子のアナタには無理よ」
佳代は、玄関横でスパイクを履きながら葛城を見据えた。その目は、挑戦的だった。
「先刻のをやった時、コーチの声が聞こえたんです。“佳代、女のおまえに出来るか”って。絶対にやってみせます」
そう言うと、葛城をおいて行ってしまった。
(すごい…あの娘と藤野さんの信頼関係は…)
「…私なんかじゃ敵わない…」
走り去る佳代の姿を見て、葛城は小さく呟いた。