やっぱすっきゃねん!VB-8
「ロープはホラッ、あそこだ」
それは、天井から2階隅に吊るされた太さ3センチほどある麻のロープで、下にはクッションが敷かれていた。
「あの黄色い印まで上がって行くんだ」
真柴が指差す高さまで、5メートルほどあった。
「…あそこまで上がるんですか」
さすがに声が上ずる佳代。真柴は当然とでも言いたげにニヤリと笑った。
「間宮!ちょっと来い」
真柴が声を掛ける。すぐに畳で受身の稽古をしていたひとりが駆けて来た。
「部長、なんですか?」
「おまえ、ロープ登りの見本をこの娘に見せてやってくれ」
「…はあ」
間宮と呼ばれた男の子は佳代と葛城を連れて奥へと向かった。
「…間宮君、あのさ、ロープ登りって大変なの?」
佳代は間宮をしげしげと見た。柔道着に“2”と書いてあるから2年生なのだろう。
弟の修より華奢に見える体躯で、ロープ登りが出来るのか半信半疑だった。
だが、間宮はあっさりと言ってのける。
「簡単ですよ。コツさえ掴めば」
「コツねえ…」
間宮がロープを掴む。
「やり方は簡単です。腕の力で身体を引っ張り上げるだけです」
両手を伸ばして体勢を作った。
「いきます」
途端に腕が縮まり身体が宙に浮いた。
「ウソッ!!」
驚きを隠せない佳代。間宮は腕を交互に伸ばし、どんどん高く上がっていく。
両手が黄色い印に触れた。間宮はビデオを逆回しでもするように、降りて来た。
「…以上…ですが?」
その間、30秒あまり。わずかに乱れた呼吸の間宮。
「…あ、ありがとう。これって、どこを鍛えるの?」
「そうですね…腕はもちろんですが、胸周りと背中全体、首ですかね」
間宮は、それだけ言うと再び稽古に戻って行った。
「ヨシ!私も」
佳代は間宮と同じように、両手を伸ばしてロープを握った。
「せ〜のッ!」
腕を一気に引き曲げる。足先がクッションから離れる。が、そこから先に進まない。
「ぐ…ぐぅぅ…」
先を掴もうとするが、片腕で体重を支えきれない。