やっぱすっきゃねん!VB-6
(去年から10キロも増えてる…)
ショックを隠しきれない。怪我しての10日あまり、満足に動かないまま食べたためだった。
(シャツがパツンパツンになってるのは洗い過ぎじゃないんだ…自分が大きくなってたのか…)
佳代自身、着ている服が窮屈だとは気づいてた。ただ、それが予想以上だったのだ。
もちろん彼女の母親、加奈は気づいていて、シャツなどはサイズの大きいモノを買ったのだが、成長がそれを上回っていた。
その後、徐々に運動の負荷は増えたので体重は少し落ちたが、身長はさらに伸びて169にもなった。
「そんなに食べてたら、すぐに私を抜いちゃうよ」
尚美の優しい忠告。だが、佳代はニッコリ笑い“ありがとう心配してくれて”と言った後、言葉を返す。
「あの時はショックだったけど、最近は、もっと大きくならないかなって思ってんの」
「なんで?」
「175くらいなら男子に見劣りしないでしょ。高校でも野球やりたいからさ…」
なんともオプティミスト(楽天家)な言葉。尚美は再び呆れ顔を見せる。
「あ、そうだ!」
佳代は箸を休め、思い出したようにジャージのポケットに入れた紙切れを取り出した。
それを見た尚美が訊ねる。
「何それ?」
「トレーニング・メニュー。藤野コーチが考えてくれたんだ」
食べる時とはまた違う、嬉しそうな佳代が尚美は、ちょっと羨ましくなった。
「ちょっと見せて」
紙切れを佳代から取り上げると、内容を読み始めた。
「ダメだよ。私もまだ見てないんだから」
「…ちょっと、アンタこれ、本当にやるの?」
尚美の顔がみるみる強張った。佳代は不安な面持ちで訊いた。
「何が書いてあるの?」
「これ、ロープ登り×10って…他にもタイヤ引き×20とか…」「エッ!?」
佳代は、慌てて紙切れを取り返すと自分の目で内容を確かめた。そこには、想像以上のメニューが記されていた。
前出のメニューはもちろん、学校前に200メートルほど続く坂道をダッシュで15本、四股100回など、冬のトレーニング以上の量がびっしりとひと月分、表になっていた。
「…アンタ、こんなのやったら死んじゃうよ」
尚美は心配げな表情で佳代を覗き込む。
「コーチが私のために考えてくれたメニューだもん。絶対にやる」
佳代はそう言うと一転、負けん気の強い顔で大きく頷いた。
「アンタが羨ましい。そんなコーチ、私にゃ居ないもの…」
「当然よォ!なんて言っても“世界一の理解者”だもん」
「あらぁ〜」
自慢気に言い放つ佳代を見て、尚美は本日3度目の呆れ顔を見せた。