やっぱすっきゃねん!VB-3
呟くような声が一哉に掛かる。
「…コーチ、そんなにおかしいですか?」
「…ああ、なかなかのジョークだな」
「じ、冗談なんかじゃないです!」
辛い思いが車内に響いた。直也の目には涙が溢れていた。
一哉は、おもむろにラジオのボリュームを絞った。すすり泣くような音だけが後から聞こえた。
一哉は一転、低いトーンで答える。
「直也…」
「…はい…」
聞かされたのは、14歳の少年が受け止めるには酷な言葉だった。
「そんなモノ知ってるなら、オレはプロになれたよ…」
核心を突かれ、直也は何も言えなくなった。
「…やるしかないのさ。自分を信じて、必死になって…」
まるで、13年前の自分に言い聞かせているような突き放した言い方。
クルマは間もなく幹線道路を抜けて学校への道に入った。再びラジオの音楽だけが車内を埋めていた。
そんなやりとりの中、ひとり佳代だけは気持ち良さそうに眠っていた。
───
翌、月曜日。
故障からひと月あまり。佳代にとって、ようやくこの日が訪れた。
最初の1週間は強制的に部活を休まされ、その後も新入生の世話や練習量をセーブされるなど、満足に身体を動かせなかった。
それが、やっと解かれるのだ。
「行ってきま〜す!」
声を弾ませ、佳代は登校して行った。
一方、青葉中のグランドにゾロゾロと集まりだしてるのは1年生部員達だ。
「あ…ふぅ。眠いなぁ」
佳代の弟、修はアクビをしながら学校の時計に目をやる。時刻は6時45分。先輩部員より早く来て出迎えるのが習わしなのだが、
「遅いぞ、おまえら。もっとシャキッとしろ!」
修達に声を掛けたのは達也に淳だった。
「すいません!おはようございます!」
慌てて整列し、ひとり々が帽子をとって頭を下げる。その光景に達也と淳は満足気に頷いた。
それから2、3年生も整列に加わりだし、7時5分前には、ほぼ全員が揃った。
「待って、待ってェー!」
その時、佳代が走り込んで来た。息を切らし、列に加わった。