やっぱすっきゃねん!VB-2
「…女くさいの嫌いなんだよな」
「悪かったね!女が女くさくて」
元々地声の大きい直也。呟いたつもりでも丸聞こえだった。
「言っとくけど、私だってアンタの汗臭いのイヤなんだからね!」
「分かったよ、うるせえな…」
途端に佳代の反撃に遇い、直也は口をつぐんだ。その表情は、先ほどまでとは違い、いつものように生き々とした目だ。
一哉と葛城は、後の賑やかしさにクスクス笑ってる。
不満顔の佳代は、閃いたように直也の顔を覗き込むと、嫌味たらしい言葉を放った。
「となりが私じゃなくて、有理ちゃんだったら良かったのにね」
「うるせえよバカ!オマエ、黙ってろ!」
途端に顔を赤くして悪態をつく直也。それを見て佳代はケラケラと笑っている。
「おまえら、その辺にしとけよ」
一哉にたしなめられ、車内がようやく静かになった。クルマはゆっくりと学校の駐車場を離れた。
クルマが走りだして30分ほど。夕暗が迫り、車道を照らすテールランプとヘッドライトだけが目立ち始める。車内には、ラジオからの軽快な音楽が流れていた。
「眠っちゃいましたね…」
返り見た葛城が目を細める。心地よい揺れも相まってか、いつの間にか佳代は寝息を立てていた。
「後、30分もすれば着きますから」
一哉は車線から視線を外すことなく答えた。ラジオの音楽はバラードに変わっていた。
葛城は一哉の方に顔を向けた。その横顔を見た彼女は、胸につかえていた思いが口をついた。
「…あの、藤野さんって、ご家族は?」
思い切った言葉。彼女にすれば気になっていた。が、何の脈絡の無い質問に、一哉はチラリと葛城を見て苦笑いを浮かべる。
「嫁いだ姉がひとりいます。両親は5年前と3年前に他界しましたから…」
「すいません…イヤなこと聞いてしまって…」
葛城は、申し訳なさそうに頭を下げた。気まずい雰囲気が流れる中、声が後から聞こえた。
「藤野コーチ…」
突然、直也の声。一哉はバックミラーを覗いた。対向車のヘッドライトで映し出される顔は、力無い目で景色を眺めている。
一哉は訊ねた。
「どうした?」
「教えてもらいたい事があります」
漂う目の直也。それを見た一哉は、口の端を上げた。
「そのために乗ったんだろう?言ってみろ」
「…その…どうしたら…勝てるんですか?」
直也は、本心を漏らした。ずっと勝てない己の弱さを自分から晒したつもりだった。
すると、一哉は声をあげて笑い出した。まるで、直也の本心を嘲笑うかのように。