やっぱすっきゃねん!VB-18
「つぎィ!」
強い打球。信也のグラブをはじく。
「なにをやっとるんだシンヤ!まだ折り返しだぞ!」
容赦ない打球が、次々彼に襲いかかる。信也は右に左へと飛び込んでいく。
「…こ、これ…」
佳代は前のめりでノックを見つめる。その迫力に、思わず両手がヒザを握りしめる。
球数は500を超えた。
「ホラッ!モタモタすんな!」
さらに打球は襲い続ける。
信也は必死の形相で白球を追った。
「…兄貴」
直也は、ベンチから身をのりだして信也を見続ける。
いつもスマートに日事をこなす兄。それが直也の知る信也の姿だった。
だが、目の前に居る兄はまったく違った。泥にまみれ、声を張り、もがくようにボールに挑む姿に、直也は目を真っ赤にして身体を震わせた。
それを見た河原は、小さく頷いた。
夕方。
迎えに来た一哉に対し、佳代は矢継ぎ早に、今日見た練習内容を語った。対して直也は、ずっと黙っていた。
そしてクルマは中学校の駐車場に停まった。
「…コーチ。ありがとうございました」
そう言った直也の顔は固かった。それを見て、一哉は笑みを浮かべた。
…「やっぱすっきゃねん!V」B完…