やっぱすっきゃねん!VB-14
(…い、急げ…)
そこから駐輪場へと向かい、自転車に荷物をくくり付けると職員室へとダッシュした。
「…す、すいません…遅くなりました」
息を切らせて中に入ると、すでに直也は来ていた。佳代は、そろそろと職員室の中を進み、直也のとなりに立った。
「ヨシ、これで揃ったな」
永井は、いつになくにこやかな顔で2人に話し掛ける。
「明日、試合前のアップを終えたら、おまえ達2人で光陵高校に行って来てくれ」
“光陵高校”と聞き、直也の顔が歪む。が、永井は構わず話を続けた。
「藤野コーチが送って下さるから、そこの野球部の練習を見学してくるんだ」
「監督!それ、本当ですか!」
高校の野球部の練習を生で見れるという事で、佳代は浮かれてしまった。
光陵高校といえば、過去2度の甲子園出場、県大会では常にベスト8という強豪の県立校だ。
「もちろんだ。野球部の監督さんには、お願いしてあるから…」
「うわぁ!ありがとうございます」
飛び上がらんばかりの嬉しさをみせる佳代に対し、直也は、黙って俯いていた。
夕闇迫る中、2人は職員室を後にした。
佳代は、嬉々とした表情で駐輪場へ向かう足取りも軽やかだ。
「…そんなに嬉しいか?」
そばを歩く直也は、ふてくされた顔で訊ねる。
「アンタ嬉しくないの!アンタの兄貴や山崎さんがいる野球部の練習が見れるんだよ!」
佳代には、逆に直也の考えが分からなかった。
「…オレにゃ他人の練習なんて見てる余裕はねぇよ。まして、兄貴なんて…」
「ナオヤ…」
この、ひと月あまり。まったく勝てないばかりか、ひどくなる一方の自分。練習の中で試行錯誤を繰り返すが、未だ何も掴めない。
それは闇の中を彷徨っているようだった。
翌日。
「さ、着いたぞ」
一哉のクルマで佳代達が訪れたのは、青葉中から20キロほど北に進んだ場所にある光陵高校から、さらに2キロほど先の丘の頂上にあるグランドだった。
朝の全体練習を終えた後、一哉が佳代と直也をクルマに積んで連れて来たのだ。
クルマを降りた3人。少し離れた場所の駐車場にまで、威勢のよい声が聞こえてくる。
「このグランドは町立なんだが、10年前から町の好意で貸してもらってるそうだ」
3人はグランドへ向かい、金網フェンスに設けられた入口前で帽子を取り、一礼すると中へと入った。
バックネット裏から1塁側に歩みを進ませると、ベンチに陣取って、ジッと部員達を見守る数人の指導者達の姿があった。