やっぱすっきゃねん!VB-12
「お母さ〜ん、これ、同じ材料、給食で食べたんだよォ」
「ガマンして食べるの!明日はピーマンだからね」
(…くそ…どうせ食べなきゃならないなら…)
佳代は煮付けを一気にかき込みだした。苦手なニンジンの味が分からないほど急いで噛みつぶし、お茶で流し込む。
「…うええ…終わった」
「アンタ!もう少し女の子らしくなさい」
何度も聞かされた母親の苦言を無視し、佳代は苦々しい顔でしばらくお腹を擦ってから気を取り直し、再びご飯に向かった。
「ウソッ!アンタ、全部食べちゃったの」
ようやく佳代の箸が止まった後を見て加奈は驚いた。大皿のロールキャベツ、根菜の煮付けはキレイに無くなり、そのうえご飯3杯を食べていた。
「…だって、疲れた時ほど食べないと」
佳代は、使った皿を流しに置くとキッチンを後にした。
呆れ顔で娘を見送った加奈はため息を吐いた。
「こんなに食べて…なんだか、ますます食べるようになってきたわ…」
子供達が消えたテーブルで、呟く加奈に建司が小さく笑った。
「ハハ…食べ頃だからね。今に君より大きくなるんじゃないか」
建司に応えて笑みを浮かべた加奈。が、それは力無いモノだった。
「もう抜かれたわ。あの娘、来年の春には170超えるわよ」
「そりゃそうだろうね。168センチの君を抜いたのなら」
「でも、私が高校の頃なんか凄く目立って。イヤだったわ…」
「…仕方ないだろ。君の場合、その長身が武器になって国体選手に選ばれたんだから。あの娘も、そう思ってるさ」
2人が色々な思いを交している最中、佳代はすでに夢の中だった。
───
佳代が特別メニューを与えられて10日あまりが過ぎた。
最初は、まったく出来なかったロープ登りも、5日前に初めて1回出来た後、今では1日5回やれるようになった。
その他のメニューについても7割がたこなせるようになり、ひと月経つ頃には絶対100%出来るようなろうと、さらに挑戦的に思うのだった。
そんな中、直也は未だ落ち込んだままでいた。
先週の試合後の帰り、一哉に受けたアドバイスに従って、ひとつ々の練習を手を抜くこと無くこなした。
そうして挑んだ3日前の練習試合だったが、相変わらず進展もないまま先発で打ち込まれてしまった。
一哉は気にした様子も無かったが、永井と葛城は、初めての体験にどう対処したものかと思案に暮れていた。
「…じゃあ、1試合目の組み合わせを帰るんですか?」
「そう。いつも達也とのコンビだったが、今回は下加茂を初回から使ってみよう」
部活後の職員室。永井と葛城は、日曜日に控えた練習試合にむけてミーティングをしていた。
いつもと違うバッテリーの組み合わせで、なんとか直也に、立ち直りのきっかけを掴んで欲しいという永井の思惑だった。
そんな時、永井の携帯が鳴りだした。