やっぱすっきゃねん!VB-10
夜。
部活を終え、保健室で着替える佳代の姿を葛城は見つめてた。
「…痛た…」
いつもはテキパキと支度をするのだが、初日のトレーニングがよほど堪えたのか、その動きはスローモーだ。
「大丈夫?」
見かねた葛城が、服を着るのに手を貸した。
「…すいません」
「いいから、そこに座って。靴下履かせてあげるから」
佳代はベッドに腰掛け、すまなそうに俯く。葛城は笑みを浮かべて靴下を足先に通していく。
おもむろに葛城が口を開いた。
「…私ね、あなたが羨ましいわ」
「え…?」
意味が分からない佳代は小首を傾げる。
「私もね、素晴らしい指導者に逢えたから大学まで野球続けたんだけど…藤野さんみたいな人、初めて見た。だから、あなたが羨ましいの」
「先生…」
葛城は頭を上げ、笑顔を佳代に向けた。
「さっ、終わったわ。帰りましょう」
「はい…」
佳代は、自分の胸が熱くなるのを感じた。
葛城とわかれ、佳代はおぼつかない足取りで駐輪場に向かった。
自転車に荷物を乗せ、ハンドルを握った。が、支える腕に力が入らない。
(仕方ない、押して帰るか)
ヨロヨロとしながら校門に向かう通路に自転車を押して出た。
「おまえ、遅せえんだよ!」
途端に直也の大声。いつもより、かなり遅い時刻なのに彼也は待っていた。
「…ごめん、着替えに手間取っちゃって」
素直な佳代に、直也は妙な気持ちになった。が、引きずる足で自転車を押している姿を見て、
「…おまえ、大丈夫なのか?」
「初日にハリキリ過ぎてね。身体中痛いしだるいの」
「自転車は?帰れるのか」
「無理みたい…押して帰るよ」
「まったく、またかよ」
「え…?」
直也は自転車を佳代の手から取りあげると、自分がサドルに跨った。
「ホラッ、乗れよ」
「でも…」
「いいから、早く乗れ」
佳代は遠慮勝ちに荷台に腰掛ける。それを確認してから直也は一気にペダルをこぎだした。
自転車は、以前よりもスムーズな走り出しで学校を後にした。