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山茶花
【家族 その他小説】

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山茶花-4

 私は、故郷の福岡へと飛んで帰った。
 祭壇に置かれた棺に眠る母を面あたりにしたが、まるで他人事のように思えて不思議と涙は出なかった。

 葬儀の日。私は驚かされた。母の人柄だろうか、その参列者の多さに。

 そして、最期の別れの挨拶。

「…皆様。本日は、私の妻、紀子の…ために…」

 親父は、それ以上言葉が出なかった。ただ、泣いていた。初めて見る涙だった。



「じゃあオレ、夕方の便で帰るから」

 葬儀も終わり、親戚の世話に忙しない姉が私を見て血相を変えた。

「アンタ、まだ休暇が取れるっちゃろうもん!せめて明日の法要まで…」
「姉ちゃん、ごめん。仕事が待っとるったい」
「この間もアンタ……」

 悲しさと罵りの入り混じった姉の声を、親父が遮る。

「…和哉。忙しい中、ありがとうな。母さん、おまえが来てくれて喜んどろうや」

 微笑んだ親父。その顔が、急に老けたように見えた。





 母の他界から3年の月日が経った。私は仙台支店長に就任した。

 その間、何度も実家へ帰れる時間はあったが、何故か足が向かうことが出来なかった。
 死に目に居られなかった事に、私は後ろめたさを感じていたのかもしれない。



 そんな折、再び異動の話が来た。

「福岡に行ってくれんか?」
「…福岡…ですか?」

 本社の上役は、戸惑う私を察して言った。

「最近、九州、山口地区の業績が落ちているのでね。そのテコ入れなんだよ。
 それに、君は福岡出身だそうじゃないか。君もそろそろ、地元で落ち着きたいだろう」
「はあ…」

 上役には悪いが、私は地元に帰りたいなどと考えた事はなかった。それが、こんなカタチで帰省するなどとは思ってもみなかった。

 人づてに聞いた話では、姉も嫁ぎ、温かだった我が家は、親父がひとりで暮らしているらしい。
 それでも、実家に帰ろうなどと考えなかった。

 が、いざ、帰る事が現実となり……

 私は、異動の決まったその日に実家と連絡をとった。





「久しぶりだな…ここも」

 降り立った駅からの風景は、少しばかり田んぼが減り宅地が増えたようだ。それ以外は、あの希望に満ちて旅立った日と何ら変わらない気がした。

「和哉!どげんしたと〜?」

 実家では姉が優しく出迎えてくれた。

「こっちの支店に異動になってくさ。また今日から世話になろうと思うて」
「急に連絡して来るちゃもん。私もお父さんもびっくりしたが!」

 そう言って心境を語る姉の傍らに、小さな子がポカンとした顔で私を見つめていた。


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