山茶花-2
夜。仕事を終えて社寮アパートに帰りついた私に、ハガキが届いてた。
母の字だった。私は部屋に入るとハガキに目を通した。
“元気でやっていますか?こちらでは、庭の山茶花が白やピンクの花を咲かせていたす。
年末休みは帰って来んと?たまには帰省して、元気な姿を見せて下さい”
「…まったく。母ちゃんな」
私は独り言を呟やくとハガキをバスケットに投げ入れた。
入社して3年目の冬。今年、ようやく認められて、ひとつの営業エリアを任されるようになった。
私は、すぐに携帯を取り出し通話ボタンを押した。
呼び出し音がもどかしい。接続音とともに聞こえた声に、思わず顔がほころんだ。
「亜紀…姉ちゃんな?」
わざと、ぶっきらぼうな口調の私。
「…か、和哉?」
姉の声は上ずっている。
「久しぶりやな…」
「なんね!アンタは…ずっと連絡もせんで!……」
その後に延々と続く姉の手厳しい言葉。今の私には疎ましく聞こえた。
「…ちょっと待っとき!」
次に聞こえて来たのは親父の声。
「和哉か。どげんや?仕事は」
「ああ、やっと面白うなってきたやね」
「…そうや」
なんともぎこちない会話。武骨で口ベタな親父らしい。
「…和哉…」
最後に母の声が聞こえた。こみあげる懐かしさをぐっと堪える。
「…ハガキ、ありがとうね」
「正月は?帰って来んとね。アンタの好きなカズノコ、よけい買うとうとよ」
相変わらずの子供扱いに、私はちょっと苦い気持ちになった。
「正月でん、何の有るか分からんったい。仕事のあるけんな。こっちば離れられんと。
暇になったら帰るけん、それまで待っときない」
ぶっきらぼうな私の返事に、母は“そうね”と寂しげな声を漏らすだけだった。
「…またな」
早く連絡を切ろうとする私を母が止めた。
「身体に気をつけんしゃいよ。皆さんに可愛がられるごとね」
「ああ、分かった…」
切った電話を私はしばらく見つめていた。気持ちに反する言葉しか出ない自分に、自己嫌悪になった。