やっぱすっきゃねん!VA-9
「回れ!回れぇー!」
打球を見た3塁コーチャーは、2塁ばかりか1塁ランナーにも腕を回している。
田畑はボールを掴み、セカンドに返球した。セカンドの和田は素早い動作でホームへと投げた。
1塁ランナーが回り込む。達也はボールを捕り、身体を捻って背中にタッチすると、ミットを着けた左手を上げて主審にアピールする。
「セェーーフッ!」
主審の手が横に振られた。東海中にすればダメ押しの追加点だ。
「タイムお願いします!」
達也は、厳しい表情でマウンドに駆け寄った。
「おまえ、何やってんだ!」
「…エッ?」
半ば放心状態の直也は、何故、怒鳴られるのか分からなかった。
「何故カバーに入らなかった!」
ホームや3塁タッチプレイの場合、ピッチャーはボールが後逸した場合に備えて後方をカバーする。しかし、直也は追加点のことで頭がいっぱいとなり、カバーを忘れてしまった。
「ここまでか……」
永井はタイムを取り、伝令に立石を送るとピッチャーを中里に変えた。
(…なんで、あんなプレイを…)
佳代は悲しかった。立ち直り掛けたのに、また、一人よがりな面を表したためにチームの指揮が落ちてしまった。
永井や葛城も、佳代と同じ意見だった。
しかし、ひとりだけ違っていた。
「なかなか良い感じになったな」
そう思ったのは一哉だった。彼は試合の中で、東海中の弱点はもちろんだが、青葉中の足りない部分も冷静に分析していた。
「なんだってんだ!!」
下げられた直也は、ベンチ前で吠えた。自身の情けなさを恥じてグラブを地面に叩き付ける。
次の瞬間、佳代は無意識に直也の頬を平手で殴っていた。
「何すんだ!」
殴られた頬を押さえる直也に、佳代は感情を爆発させた。
「自分の思い通りにならないからってグラブに当たるな!」
佳代は唇を噛んだ。真っ赤にした瞳には涙が滲んでいた。直也はそれを見て、ただ黙って俯いた。
「みっともない姿を見せるなよ!あんたはエースでしょ。あんたの姿を部員全員が見てるんだよ!」
佳代の言葉が、直也の心にグサリと突き刺さる。
永井や葛城は、2人のやりとりをただ黙って見つめていた。
その後、試合は勝負どころも無く、2‐7で東海中の勝利となった。
次の第2試合は稲森の先発で均衡した試合となり、結局、3‐3のドローで終わった。
練習試合後、両チームによるグランド整備を行なってから東海中は帰って行った。