やっぱすっきゃねん！Ⅲ②-8
「このまま、追加点が無ければ逆転出来ますよ！」
流れは青葉中にあると佳代は信じていた。
８、９番を連続三振に奪ってツーアウトとなり、打順は１番に戻った。バッターは、３回ほど強く素振りを繰り返してから打席に入った。
一連の動作に“わざとらしさ”を感じた達也は、初球は様子見として外のボール球を要求する。
直也はサインに頷き、初球を外に投げた。が、少し内側にボールが入ってしまった。
バッターはバントのようにボールをバットに当てると、素早く１塁へとダッシュする。
ボールは直也の左横を転がった。右ピッチャーの場合、投げた直後に身体が右に流れるため、左横へのゴロには対応が遅れてしまう。
直也は、慌てて身体を戻しボールを掴んだが、バッターは１塁へ頭からスライディングしていた。
「クソッ！」
悪態をつく直也。達也は手振りを混じえて落ち着くよう促す。
バッターは２番。直也がセットポジションを取るとランナーは塁から離れ、かなりのリードを見せた。
（…こいつ…）
直也はセットポジションのまま１塁方向を見た。ランナーは大きなリードのまま彼を見つめている。
（このぉ！）
直也の右足がプレートから離れ、素早い身体の回転とともにファーストへ送球する。
ランナーは反応して頭から１塁に飛び込んだ。一ノ瀬はボールを捕ると、ランナーの右手にタッチする。
「セーフ！」
際どいタイミングだが塁審の手は横に振られる。再び、直也の心に苛立ちが表れだした。
セットポジションを長めに取って、今度はバッターに向かって投げた。ランナーはリードを２、３歩大きく取り、盗塁のタイミングを計ると１塁に戻る動作を繰り返す。
直也は、ランナーの動きが気になって打者に集中出来ない。結果、フォアボールを与えてしまった。
ツーアウト２塁、１塁。達也は、すかさずマウンドに向かった。
「ツーアウトだ。バッターに集中しろ」
「ああ…スマン…」
「次は３番だ。前の２打席抑えてるからって油断するなよ」
達也は、一言釘を刺してマウンドから降りて行った。
バッターが右打席に入る。右足で地面を軽く均し、ベース寄りでキャッチャーに近い位置の窪みに右足を埋めた。
（前の２打席は、カーブにタイミングが合ってなかったな…）
初球、達也は外角の低めにカーブを要求する。頷いた直也はグラブの中で縫目を確認した。
縫目に人差し指と中指を深く掛け、親指は浅く握った。腕を振ってリリースの瞬間、親指と人差し指の間から抜くように回転を掛けた。
ボールは浮き上がり、そこから大きな弧を描いて構えたミットに向かっていく。
だが、バッターはそのカーブを待っていた。大きくステップした左足をベース寄りに強く踏み出し、思い切りよくバットを振り抜いた。
強い金属音とともに、鋭い打球がライトに飛んだ。田畑は必死に落下地点へ走ったが、間を抜かれてしまった。