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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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やっぱすっきゃねん!VA-5

「…まずいな」

 永井は、アゴひげを親指で撫でた。彼が考え事をする時のクセだ。

(藤野さんと決めたとはいえ、このままじゃ……)

 永井は、ポケットから携帯を取り出すと通話ボタンを押した。

「何でしょう?」

 声の主は一哉だった。永井は周りの事を考え、ニュアンスを変えて訊いた。

「…先日決めた回数ですが、どうします?」

(なるほど…あまりの調子だから変えるつもりか)

 永井の思いを汲み取った一哉は答える。

「お気持ちは分かりますが、予定通りでお願いします」
「しかし…」
「プレッシャーに耐える事も練習です。このまま行きましょう」

 永井は電話を切った。その顔には迷いは無かった。

 2回表を終えて選手達がベンチに戻って来た。打順は4番の達也から。慌ててプロテクターやレガースを外し打席の準備をする。

「監督…」

 その時、永井の前に直也が現れた。

「何だ?」

 直也は、俯き力無い声で訴えた。

「…ピッチャーを…変えて下さい」

 その言葉に永井は即答した。

「ダメだ。おまえはウチのエースなんだ。5回まで投げろ」


「…でも、こんなに調子悪くちゃ…」

 うなだれて言葉を返す直也に対し、永井は強い口調でたしなめる。

「おまえは実力でエースになったんだ。兄貴と同じようにな。今のおまえを見たら、信也はどう思う?」

 兄、信也の名前に、直也の目がわずかに輝いた。

「予定通り5回までだ。いいな?」

 永井の指示に、直也は深く頭を下げるとベンチ奥に戻った。
 近くで2人のやりとりを聞いていた葛城と佳代は、顔を合わせて微笑んだ。

 2回裏。4番達也、5番淳がヒットで出塁する。

「今度はこっちの番だな…」

 永井はバッターの一ノ瀬にバントのサインを送った。一ノ瀬は、最初からバントの構えで打席に立った。
 東海中のファーストとサードは、ベースより前に守備位置を変えた。ピッチャーは早いモーションで投げた。

 同時にファーストとサードが、ホームにむかって猛然とダッシュする。
 一ノ瀬がボールにバットを当てた。が、打球は1塁側に転がった。
 ファーストはボールを掴んでサードを一瞬見た。投げても間に合わないとみるや2塁に送球する。スタートが遅れた淳はフォース・アウトになった。

 ワンアウト3塁、1塁。バッターは7番森尾。昨年まではセカンドの控えだったが、今年からショートにコンバートされてレギュラーを掴んだ。
 森尾は粘って5球目を打った。打球はボテボテのセカンドゴロ。アウトになったが、その間に達也がホームへ突っ込み青葉中に待望の1点が入った。

 ようやくベンチに活気が戻った。


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