やっぱすっきゃねん!VA-10
明日のミーティング。永井は整列した部員達の前で、あえて今日の反省点を述べなかった。選手ひとり々が、充分、分かってるだろうと思ったからだ。
試合中、直也と達也のやりとりを見た葛城も、同様に何も言わなかった。
「では、藤野コーチ。お願いします…」
最後に一哉の番になった。彼はまったくの真逆で、試合のまずかったプレイをひとつ々を部員達に語り始めた。
「まず敗けた試合だが……」
冒頭に、直也、及び達也のミスをあげた。
「最大の敗因はピッチャーの出来がマズ過ぎた。初回の死球をずっと引きずっていたため、左バッターの内側を的確に突けていない。
それから、平常心を失い易い。ヒットや仲間のエラー、ランナーを背負った場面は特にひどかった。野手はピッチャーの背中を見てプレイしている。だから、どんな状況に置かれても平常心を保ってプレイする必要がある」
直也は唇を固く結んでうなだれた。
「次はキャッチャーだが、ピッチャーをサポートする面は良かった。しかし、前打席で良かったといって同じ配球を要求するなど、リード面で何度か甘い時もあった……」
一哉の言葉は続く。直也は、力無い表情でうなだれて目を瞑っている。一方の達也は、しっかりと一哉を見据えて真剣な顔で聞き入っていた。
ひとしきり反省点を述べた一哉は、最後に激励の言葉を部員達に送った。
「…勝ちたい気持ちは分かる。だが、そのためにはワンプレイを大事にしろ。
今日は気持ちが空回りしたんだ。この敗因を頭に叩き込め。まだ、始まったばかりだ。
試合には勝てなかったが、おまえ達ひとり々の力は敗けてない。必ず全国に行ける…」
日が落ちた薄暮の中、部員達が学校を後にする。そんな中、佳代は直也、達也、淳と一緒に校門に向かっていた。
「どうしちゃったの?今日は最初からおかしかったし…」
直也の失態を不思議がる佳代。だが、聞かれた直也は苦笑いを浮かべるだけで、何も語らない。
校門の前を迎え、
「じゃあ、また明日…」
自転車に跨り手を振る佳代に、達也や淳は“明日は魁正中だからな”と言って帰って行った。
「さて…」
佳代は直也に声を掛けて自分も帰ろうと横を見た。すると、思い詰めた顔をしていた。