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Day before picnic
【ショートショート その他小説】

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Day before picnic-2

 僕は本当に、頭から尻尾まで石を探すことしか考えていなかった。僕はもう、宇宙の果ての隣の島に属するべきだと思っていたし、それ以外の選択肢は何一つ見つからなかった。その一方で、僕は僕の選んだ道に確信を持てないのも確かだった。石は本当に見つかるのか? そもそも、空を飛べる石なんて本当に存在するのか? そう考えると、なんだかもう何を考えていいのか分からなくなり、最終的には、なぜ僕は生まれてきたのだろうと考えるようになった。

そうするうち、僕は高校を卒業し、短期大学に入学した。就職するためには、高卒では心もとなかったし、石を見つけるためにも、どうやら時間はもっと必要そうだったし、もしかしたら石が見つからないかもしれない、という思いも、小学校時代や中学校時代に比べると、随分と大きくなっていた。このまま不安が膨らんでいけば、その内にプッツリと石探しをやめてしまうんじゃないだろうかと思うくらいに。

 石は一向に見つからなかった。そもそも、石探しをする時間すら、なかなかとれなくなっていた。



 短期大学を卒業し、アルバイトを転々と繰り返した後で、僕はスーパー・マーケットに就職した。社会人になると、石を探す時間なんて本当に僅かになった。一日が終わると、もうくたくたで、石を探す気が起きない。休日には、つまらない雑務があったり、日ごろのストレスや疲れを癒すことに優先され、なかなか石を探しにいけなかった。

 その頃になると、友人も親も石の事は口に出さなくなった。どこか、こんな歳になってまで真面目に石の話をするなんて馬鹿馬鹿しいという空気すら、そこには漂っていた。だから、僕はほとんど誰にも言わず、時折タイミングを見計らっては、石を探しに行った。

 ある時から、石を探しに行ったときには、必ず一つだけ、なんでもないそこらに転がっている石を拾って来ることにした。それを窓際の本箱の上に一つずつ並べていく。石の表面には油性マジックで日付が書かれている。その石を拾ってきた時の日付だ。



 たまに、もう石を探すのなんてやめちゃえばいいんだ、と僕は思う。僕の両親も、友人も、そして本当は僕自身ももう気づいていた。もう誰も僕に石を探す事を求めていないということに。そして、多くの友人たちは、少年から大人になるにつれて、石探しなんてもうすっかりやめてしまっていることに。

 でも、そんなことは問題じゃないんだ、と僕は思う。僕はもう随分と昔から石を探すことに慣れているし、石を探しながら暮らすことがあまりにもしっくりきすぎている。二ヶ月間もずっと石探しをサボってしまうと、なんだか嫌な気分になる。そんな日々が続くと、僕は僕自身にうまく価値を見出せなくなってしまう。そういう状態で生きるのは、僕にはちょっと辛すぎる。

 もう、半分空を飛べる石なんて見つからなくても、まあいいかという気分になっている。たまに恋人が遊びに来たときに、彼女が本箱の上にある石の数が増えていることに気がついて、その中から気に入った石を一つ手に取る。そして、なんだか嬉しそうにその石を眺めている。それだけでもう十分じゃないか、と僕は思う。ただそれだけで、僕はこれからも石を探し続けられると僕は思う。それさえ出来れば、僕はなんとか生きていける。

 

明日は恋人と二人で公園へピクニックへ行く。そして、二人で石を探す。空を飛べる石じゃないかもしれない。それでも構わない。そうして、僕の部屋の窓際。本箱の上に、また一つ石が置かれる。

その形は、その色は、さあ。どんなふうに見える?


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