電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―争い編―-6
「……こと、まこと」
……美由貴の声がまるで硝子越しみたいに遠く聞こえる。
「美由貴?」
「あーよかった気がついたぁ☆」
美由貴の姿を見つけ、呆気にとられるが、すぐさま記憶が繋がれる。
「そっか、アタシ……うわ」
自己嫌悪。もう八年も経つというのに。
「うー◎ 誰にだって苦手はあるよ、人でなしの真琴さんにだって」
「おい」
反射で呼びかけるが、美由貴が真琴に振り向くことはなかった。テスト勉強で寝不足もあり、起き上がるのが億劫、とここでようやくソファに寝かされ、美由貴の上着が掛けられてることに気付いた。
「ここは?」
「ふっふ。あのね、真琴をお姫様抱っこでね、そしたらさすぐそこになんと立派なベッドがあってさ!」
「あー、大体分かった」
多分、まだビルの中で、このソファは打ち捨てられたものだろう。埃っぽいが、今は気にする気力がない。
「真琴真琴」
「何?」
「……ごめんね」
「バカ」
何を謝ってるんだこの支離滅裂電波天使は。
そうか支離滅裂だから、気にする必要はないのか。
「もうちょっと休んでおくといーよ☆」
「……〔現象〕が」
「大丈夫」
「――……」
……今の美由貴の声は、酷く優しく、慈しみがあって。聴くだけで無条件に安心できる。
これが天使の声の力なのか。或いは、記憶を掻き乱す、何か。夢のように曖昧な、何か。
「真琴はいやかもだけど。ちょっとだけね、美由貴調べた。この〔現象〕」
しかし、目を合わせられない。美由貴は合わせてるかもしれないが、真琴は合わせられない。
「この〔現象〕ね、〔遺志〕で起きてる」
「〔意志〕……〔遺志〕? もう死んでるの?」
死んだ人間の〔遺志〕によって起こる〔現象〕。〔現象〕は〔意志〕を拡散させることで納めることができる。しかし死んだ人間の場合は〔遺志〕となり、当の本人が死んでる為〔遺志〕そのものが拡散出来ない。
だが〔遺志〕で〔現象〕を起こすには、生きた人間がいるのだ。死者はこの世に干渉出来ない。
つまり、この〔現象〕を起こしたのは、〔遺志〕を残した死者でなく、〔遺志〕を利用する、生きた人間ということ。
「……ちょっと整理しよっか。まず、この〔現象〕はそもそも何か」
幻影が起こっていたが、全て実体に害はなかった。この〔現象〕は、人を傷つけることを良しとしない。だがおそらく、本命の〔現象〕には、まだ遭遇していない。考えを更に紡ぐ。
「〔遺志〕は誰が遺したものか?」
「エンチョウサン」
「……何て?」
「園長さん。このビルで、保育所やってたんだって、じぃじぃさまから聞いたよ」
「あー、ビルのオーナーだっけ。経営破綻で自殺した」
有りがちな話。有りがちな、悲惨な話。
「理想は高いけど現実見れなかったパターンだよね」
「そしてなんとびっくり☆」
――天使から告げられた事実に、真琴は黙る。
気が重かった。しかし、放っとくと〔現象〕は、厄介な方に必ず進む。
とりあえず、立ち上がって。美由貴にツッコむことにする。