やっぱすっきゃねん!V@-1
4月。
「…も…もうダメだ…」
グランド10周のランニングに力尽きてへたり込む新入生達。その様子をそばで見つめる佳代は強い口調で言い放つ。
「ほらぁっ!モタモタしない。すぐにストレッチやって、スクワット200回!」
「…ち、ちょっと待ってよ…姉ちゃん…」
テスト生のひとりである弟の修が姉に泣きついた。彼も中学生になり野球部の門を叩いたひとりだ。だが、そんな弟を佳代は仁王立ちで一蹴する。
「姉ちゃんじゃない!!さっさと起きろ!」
佳代に厳しい怒号に、修はしょげ返った顔で身体を起こしだす。周りもつられるように起き上がるとストレッチが始まった。
そんなやり取りを眺める先輩部員達。自分の時を思い出し、笑みを漏らすのだった。
『やっぱすっきゃねん!?』
監督の永井に命じられ、佳代は昨日からテスト生の指導を任された。
練習はもちろん、草むしりや小石拾いなどのグランド整備や、ボールや用具の手入れなど、部員としての在り方を身をもって体験させるために。
テストは1週間続けられ、それに耐えられた者だけが晴れて新入部員と認められる。
今年のテスト生は25名。毎年、あまりの辛さに耐えかねて半数は辞めてしまう。
特に今年は例年以上の練習をテストに課しているためか、“10名も残れば上出来”というのが部員達の予想だった。
佳代は監督から渡された練習メニューに従い、次々とテスト生に指示を出していく。
当然、自身の練習もあるはずなのだが、指導するばかりで身体を動かそうとしない。
“やらない”のではなく“やりたくても出来ない”のだった。
事は3週間前に遡る。
一哉とのレギュラーを賭けた“真剣勝負”を終えた翌日。
「ライト!いくぞ!」
「お願いします!!」
バットを持つ永井から声が掛かった。佳代は応じてカン高い声で叫びグローブを高く上げる。
金属音を残し、打球はライナーで右中間に飛んだ。佳代は打球の落下地点へとダッシュする。
捕球しようと左足で地面を蹴り、身体をいっぱいに伸ばした。
その瞬間、腰にピリッと痛みが走った。
(何?今の…)
掴んだボールをセカンドへ返球した後、痛みを確かめるように
腰に手をやる佳代。
初めての体験に、どうして良いのか分からずにそのまま練習を続けた。すると、痛みは治まるどころかどんどんと酷くなった。