やっぱすっきゃねん!V@-6
翌日。佳代は午後から登校した。途端に、尚美や有理、他にもクラスメイト達が彼女の席を取り囲んだ。
「どうしたのアンタ?怪我したって聞いたけど…」
「ゴメン!部活でちょっと痛めてさ。明日まで病院通いなんだ」
数人に囲まれて話をしていると、
「病院通いって、そんなに悪いのか?」
声は囲いの外から聞こえた。直也だった。その姿が人垣を分けて佳代の前に立った。
「…全治2週間でさ。1週間は運動禁止だって。だから、今週いっぱいは来れないよ…」
「痛みは?ひどいのか」
「注射とクスリのおかげで大分和らいだよ」
「練習試合は?」
「…多分、行けると思うけど」
「そうか…」
その時、硬く見えた直也の表情が、幾分、和らいだように佳代には思えた。
「…痛てて……」
放課後。佳代は席を立つと教室を出た。痛み止めが切れてきたのだろう。その足取りは力無く鈍かった。
いつもは、駆け足で保健室に向かう道がやけに長く感じられる。
彼女が駐輪場へたどり着いた時には、グランドから野球部員の声が聞こえていた。
ゆっくりと自転車を押してグランド横まで来ると、立ち止まってその様子を眺めた。
ちょうど声出しの最中だった。下級生部員が、グランドいっぱいに響くほどの声で叫んでいる。
ジッと見つめる佳代。
(…この間まで、アソコにいたんだよね…私…)
金網のフェンス1枚で隔てられた世界。しかし、今の佳代にとっては、遠い場所のように思われた。
グランドではランニングが始まった。誰も彼女を見る者も無く、黙々と走っていく。
佳代は、その姿を振り切るように自転車をこぎだした。
「どう?調子は」
起きてきた佳代に加奈が声を掛ける。
「ずいぶん良くなった。まだ、ちょっと痛むけど…」
答える佳代の表情には、先日までの落ち込みは無かった。ようやく怪我から1週間が経過し、今日から部活に戻れるからだ。
学校に到着すると、保健室でユニフォームの袖を通した。嬉々とした表情で顔は輝いている。
「監督!色々面倒を掛けてすいませんでした!」
早朝、ハツラツとした声で頭を下げる佳代がいた。仲間達も笑顔で迎えた。