やっぱすっきゃねん!V@-5
(足も速いし、気持ちが強そう…絶対、1軍に上がってくるな)
佳代は、いつの間にか笑みを浮かべてその選手の動きを追っていた。
その次の打席。どんなバッティングをするのかと目を凝らして見ていると、一転、1球目にセーフティ・バントで出塁し、すぐに盗塁で2塁を奪い取った。
(…バッティングだけじゃなくて、何でもやれるんだ)
盗塁を決めた選手は、集中した良い表情を見せた。
この時、佳代の頭の中で衝撃が走った。
“オマエは仲間達に何が出来るんだ?”
小学校6年で、初めてライトのレギュラーになった時。昨年、初めて大会に出してもらった事が甦る。
(あの時は、ただ必死に試合をこなしていた…)
画面の向こうに、佳代はあの頃の自分を思い出していた。
夜。夕食も入浴も終え、リビングでまったりと寛いでいる佳代。
いつもなら部活から帰る時刻。そこから食事に入浴、ユニフォーム等の洗濯に入浴後のストレッチやマッサージ。
それにグローブやスパイク磨き。それに加えて宿題や復習など、帰宅後も気の休まる暇のないほど忙しい日々をこなしてきた。
それらが全て無いのだ。佳代はこの時間を満喫していた。
表面では。
実際は練習出来ない事が不安でたまらなかった。
唐突に、来客を知らせるアラームがリビングに響いた。玄関のドアーフォンだ。
「多分、お父さんだ!」
となりにいた修は立ち上がり、出迎えにと玄関に走った。かと思うと、血相を変えて戻ってきた。
「…ね、姉ちゃん!藤野コーチが…」
「エエッ!」
佳代は思わず奇声をあげ、立ち上がってバタバタと玄関に向かった。
「カヨッ!走っちゃダメでしょ」
「痛み止めが効いてるからって無理するなよ」
そこには、加奈に出迎えられた一哉が立っていた。
「…コーチ。どうして?」
「先刻、永井監督から連絡を受けてな。どんな状態かと思ったが、大丈夫そうだな…」
「…はぁ。ただ、1週間は部活に来るなって…」
「当たり前だ。練習よりも怪我をキチンと治すのが先決だ」
「…でも、1週間も休んじゃうと練習が遅れてしまうし…それに、来週からは練習試合も始まって…」
つい、隠していた本音が漏れた。そんな佳代に、一哉は優しく諭す。
「そうやって無理をして、結局は野球を断念せざるを得なくなったヤツをオレは何人も見てきた。
オレはオマエ達をそんな目に遭わせるわけにはいかん。それに、今なら5月には復帰出来るから本大会には充分間に合うだろう。だから、1週間は休みを貰ったと思って休むんだ」
一哉の、気遣いが嬉しかった佳代は笑顔で頷いた。
「分かりました!病院の許可を得たら戻ります」
「その時は別メニューでトレーニングを行うからな」
一哉はそれだけ言うと帰って行った。玄関先まで見送る佳代の肩を加奈が抱いた。
「寝る前に、湿布を貼り替えなきゃね」
「そだね…」
去っていく一哉のクルマを、2人はしばらく見つめていた。