やっぱすっきゃねん!V@-4
佳代が自宅に帰りつくと、ちょうど昼時だった。忘れぬうちにと永井に連絡を入れた。
「……ですから、明日の夕方からでも練習に戻れると思います」
佳代は病院での診断と現在の状態を詳細に伝えた。そして、胸の内を明るく伝える。
しかし、受話器から聞こえる永井の口調は厳しいモノだった。
「ダメだ!医者に言われた通り、1週間は部活は禁止だ。いいな」
「…ち、ちょっと監督!」
永井は佳代の言い分も聞かず、一方的に電話を切ってしまった。
「監督、何て?」
やり取りを聞いていた加奈の問いかけに、佳代はややむくれた表情で答えた。
「…監督、1週間は部活に来るなって…」
「そう…」
俯く佳代。その状況を予想していた加奈。彼女自身、元アスリートとして知っていた。腰の完治には時間が掛かると。
「だったら、今は怪我を早く治すことね。安静にして炎症を起こした腰を冷やすように」
佳代は母親に促されるまま、湿布を貼り替えてリビングのソファに寝転がる。テレビをつけた。折しも、プロ野球のオープン戦が中継されていた。
3月の中旬という事もあり、主力選手は出場していない。ほとんどが1軍ギリギリの選手だ。
だが、彼らにとっては1軍に残るための大事な試合なのだ。誰もが必死にアピールしていた。
そんな試合の中盤、ひとりの選手が佳代の目に留まった。
70という、監督かコーチと見誤うような背番号。高校生のような華奢な体躯が左打席に入った。
彼はボール球には手を出さず、タイミングの合っていない変化球をファウルで対応すると、10球目をセンター前に弾き返した。
佳代は思わずソファから起き上がる。
(…へぇ〜、柔らかい打ち方)
リプレイが映し出された。佳代は、そのバッティング・フォームに心動かされた。体重移動から振り出しまで、バットを握る位置がまったく動いていない。
(普通なら、上下に動くのに…)
そこから身体に巻きつけるようにバットを振り、ボールに当たる直前でバットの先端が出てくる。
「あれだけ柔らかい手首だから、変化球にも対応出来るのか…」
そう思うと、身体がウズウズして来た。
「ああーーっ!くっそう!せっかく真似したいのに身体が動かせなぁーーい!」
幼子のように地団駄を踏む佳代。その目は守備になっても背番号70を追っていた。
守備はレフトだった。そこに、左中間を抜けそうな打球が飛んだ。彼は右手後に落ちてくる打球に向かって走り、地面スレスレに飛び込んで掴んだ。