やっぱすっきゃねん!V@-2
「オマエ、どうしたんだ?」
練習を終えた帰り。直也には佳代の姿が異様に思えた。腰をかがめて自転車のハンドルを持ち、すり足のような歩調で近寄ってくる。なにより、表情が痛々しい。
「…こ…腰が痛くて……」
その格好に、直也は思わず笑ってしまった。
「アハハハッ!おまえ、なんて格好で…」
「…う…うるさい!…痛たた…」
大きな声を出した途端に痛みが増した。息をするのも苦しげな様子に、笑い事じゃないと思った直也は口をつぐんだ。
「すまん、すまん。でも、何やって痛めたんだ?」
「ノック受けてて…ジャンプした時に。最初は大した事…無かったんだけど…段々痛くなって…」
痛々しげな佳代を見た直也は、しばらく考えてから彼女の自転車を掴むと、
「オマエ、後に乗れ。オレが運転してやるから」
「い、いいよ!アタタ…ゆっくり押して…帰るから」
突然の申し出に、佳代は思わず手を振った。
「バカ!おまえン家まで何キロ有ると思ってんだ。その間に益々痛くなるぞ。それより、早く帰って痛めた場所を冷やせば治りも早いだろ」
(確かに治す事を考えないと…)
「…じゃあ…ごめん、頼むわ…」
佳代は申し出を受け入れ、自転車を直也に渡した。
「…まずは身軽にしないとな」
直也は後の荷台に積まれたバッグを外し、自分のバッグと入れ替えた。
「何…してんの?」
「おまえのバッグにゃユニフォームや制服が入ってるだろ?だからオレのと変えたんだ。それをケツに敷いとけ」
「…ダメだよ…な、直也のだって…」
「オレのにゃユニフォームしか入ってねいよ。いいから座れって」
言われるままに荷台を跨いで乗る佳代を見て、直也は嘆いた。
「おまえ…一応女の子なんだからそれらしくしろよ。男みたいな乗り方で…」
「うる!…さいな…こっちの方が…楽なの…」
「それに、このタイヤの潰れ具合。おまえ体重何キロ有るんだ?」
「…お、女の子に…聞くな…早く出してよ」
「ハイハイ…」
直也は苦笑いを浮かべてペダルをこいだ。自転車は不安定に揺れながら進んで行った。
「大丈夫?ひとりで行ける?」
「…大丈夫だよ。じゃ、おやすみなさい」
直也との2人乗りで帰宅すると、加奈が佳代を待っていた。いつもより遅いため、玄関外にいたのだ。
佳代はさっそく事情を話すと、直也にお礼を言った後、
「すぐ身体を洗ってから湿布しましょう」
そう言って彼女をバスルームへと連れていき、身体を洗ってから患部に冷感湿布を貼った。
その後、1時間もすると痛みが少しだけ和らいで来た。自力で階段を上がっていく佳代に、加奈が下から声を掛ける。
「まだ寝ないでしょ?寝る前にもう一度貼り換えるから」
「…分かった…」
ようやく自室にたどり着いた佳代。ゆっくりとした動きでベッドに腰掛けた。
「…何だか…長い1日だったなぁ…」
独り言を言った後、深くため息を吐いた。