やっぱすっきゃねん!V@-12
「せんせ〜い、本当は藤野コーチの事好きなんじゃ…?」
企んだような目で葛城の表情を伺う佳代。一方、葛城の方はあまりに突然の問いかけに頬を染めた。
「アーーッ!やっぱり!」
「シーッ!静かになさい、声が大きいわ」
佳代は慌てて口を両手で塞いだ。葛城は再びグランドに目を移すと静かに答える。
「…残念ながら違うわよ」
「でも、今、顔を赤くしたじゃないですか?」
佳代は残念そうな声をあげると、顔をグランドに向けた。
「私は藤野さんを指導者として尊敬してるの。自分もああなりたいって…」
葛城は言葉を続ける。佳代は黙ってそれを聞いた。
「…それに彼は臨時だから。いつまで居てくれるか分からないでしょ。だから、それまでに少しでも私達が彼の知識を吸収しなきゃ」
佳代は葛城の方を向いた。その横顔は優しさを湛えながらも、決意を表していた。
「ラスト!」
達也の手が上がる。同時に内外野でキャッチボールをしていた選手から、ベンチに向かってボールが返された。
1年生達がそのボールを拾ってカゴに戻す。他にも、主審にボールを届けるボールボーイやファウル処理に散らばっていた。
直也が投げた。キャッチャー達也は中腰の体勢でボールを捕り、小さなステップとスローイングでセカンドに投げた。
ボールはしゃがんだ直也のすぐ上を、低い軌道でセカンド和田のグラブに収まった。
東海中のベンチがざわめいた。
「…なんて球だ…こりゃあ、盗塁は慎重にやらないと」
和田から内野にボールが回され直也に返される。
「しまって行くぞーー!」
達也がグランドいっぱいに響くほどの声をあげた。内外野に散った選手達が応えるように、グラブを掲げて叫んだ。
1番バッターが左打席に入った。楔を打ち込むようにスパイクで地面を蹴る。
主審の右手が上がった。
「プレイボール!」
佳代達3年生にとって、最期の夏に向けた戦いが始まった。
達也はバッターの足元を見据える。真ん中より前側に構えている。
(…序盤だから、掻き回しにくるかな?)
セーフティ・バントを警戒してサインを出す。胸元の近目に真っ直ぐ。
直也は小さく頷き、ワインドアップ・ポジションから1球目を投げようとする。その瞬間、バッターはバントの構えをとった。