やっぱすっきゃねん!V@-11
「あの…澤田さん、良いですか?」
「…ああ、ごめん。はい…」
中里の相手をする立石が、佳代が脱いだキャッチャー防具を身につけ、ピッチング練習を始めた。
1番奥のブルペンでは、先発の直也が山下達也をようやく座らせていた。
「なんだか気合い入ってる…」
黙々と真っ直ぐを投げ込む直也。こめかみから汗を滴らせ、険しい顔を見せている。
(…ちょっと入れ込み過ぎじゃ…)
その状態を余裕の無さと受け取った佳代は、心配気に見つめていた。
開始30分前になると、お互いが練習を切り上げた。東海中はグランド外に集まり、竹原の指示を聞きながら昼食を摂り始めた。
対して青葉中は、選手以外はグランド整備にあたり、いつものバナナと水分補給という軽食で試合に向けた準備を完了させた。
そして試合開始時刻を迎えた。3塁ベンチ前では、青葉中の選手達が円陣を組んでいる。
「いいか!新チームの初試合だ!奪りに行くぞ」
キャプテン達也の号令の元、選手達は心をひとつにして叫んだ。
「集合!」
主審の右手が上がった。
両ベンチから選手達がホームへと駆け寄って行った。お互いが対峙するように整列する。
(いいなあ…)
佳代はベンチからその姿を見て羨ましく思った。
試合前の挨拶を終えて、後攻の青葉中がグランドに散った。
まっさらなマウンドに登る背番号1。直也はプレートから6歩半目をスパイクの爪で窪ませた。
プレートに両足を乗せて前方を見る。キャッチャー達也はしゃがみ込んでミットを構えていた。
直也は小さく頷くと左足を1歩、後に下げた。
両手を胸の前で合わせて大きく息を吐いた次の瞬間、左足を上げ、背番号がホームに向くまで上体をねじる。
身体を前に倒し、左足が窪みを掴んだ。ねじって反動をつけた身体を一気に解放して右腕を振った。回転で得た力のすべてをボールに乗せて。
乾いた音が達也のミットを鳴らした。その威力は1年前と比べモノにならないほどだった。
「…すごい…それに、あの投げ方…」
直也の投球練習を驚きの表情で見つめる佳代のそばで、葛城がフォローする。
「あれはね、藤野コーチが変えさせたの」
「エッ?コーチが」
「以前の投げ方も威力はあるんだけど、上下動が大き過ぎるために重心がブレてコントロールが乱れ易いの」
「…ああ、それで…」
「そう。回転で力を使えば重心はブレ難いから」
「なるほど…よく見てますねえ…」
「川口君だけじゃないのよ。橋本君の投げ方や各ピッチャーの細かい指導も全部…あんな人初めてよ」
熱っぽく語る葛城の姿に、佳代は面食らうと同時に、つい、からかってみたくなった。