やっぱすっきゃねん!V@-10
「これからの10週、約2ヶ月半の間に様々な学校と練習試合を組んでいます。当然、彼らとは地区や県大会で戦うわけです」
「じゃあ、今から偵察を?」
葛城の言葉に一哉は頷いた。
「少しは役にたつでしょうから…」
いつもの練習が終わり、部員達は3つに分かれる。野手はバッティング、ピッチャーは投球練習に。そして、試合に出ない部員はサポートへと。
ブルペンには直也に淳、稲森、山下達也の3年生バッテリーと、中里と下賀茂の2年生バッテリー。そして、佳代と立石がサポートで入っていた。
「やるか」
直也の合図でピッチング練習が始まった。最初は軽いキャッチボールから徐々にスピードを上げていく。
傍らには葛城の姿があった。本来、一哉も要るのだが、彼はグランド奥で行われている東海中の練習を観察していた。
「仕上がったら順番にバッティング・ピッチャーに行くのよ」
葛城の声に応えるように、淳と中里は早くもキャッチャーを座らせている。
「カヨ、いいか?」
「…よし!オッケー」
佳代は予備のプロテクターとレガースを着け、マスクを被ると低く構えた。
(へぇ、良い構えするなぁ…)
淳は内心、構えに感心した。そして、マウンドのプレートに左足を置くと、オーソドックスなセットポジションをとった。
身体をピタリと止め、そこからほとんど反動をつけずに右腕を振る。角度のあるボールが佳代のグラブを鳴らした。
(くっ…速い。この角度でボールもホップして…)
掌の衝撃に顔をしかめ、淳の投げる真っ直ぐの威力に佳代は驚いた。
「次はフォークな」
淳は人差し指と中指の間にボールを挟み込むと、手首のスナップを使わず右腕を振った。
ボールは真っ直ぐと同じ軌道を描きながら、大きく沈み、バウンドした。
「クッ!」
佳代は必死にボールを身体で止めた。
(…これだけの球なら、今でも充分使えるわ)
その後も、チェンジアップを含めた変化球を投げ込むが、わずかの期間で覚えたとは思えないほど充実したピッチングだった。
「ヨシッ!ありがとよ」
淳はそう言うと、マウンドからバッティング練習が行われている方へと駆けて行った。
佳代はマスクやプロテクターを外しながら、その後姿を微笑んで見送ると、
「…さて、こっちはどうかな?」
そう言って他のピッチャーを見た。