二個目の苺〜ビターチョコ〜-1
さっと着替えて鏡で自分の姿を見る
まるで思春期の女の子みたいにそわそわと細部を整えて、裾を引っ張る
…いくら杏子さんとの初デートでも、浮足立ってるよなぁ
つい苦笑してしまうが、そんなに悪い気分じゃない
鏡を見て微笑むのなんて随分久しぶりだ
ふと真顔に戻り、目の前の男を見つめると、彼もこちらをじっと見る
「こんなに早く幸せになれるなんて思わなかったね」
ふいに体が震えた
目の前の自分に近づき、両手を合わせる
「大丈夫、もう大丈夫だよ
もう、寂しくないから」
そっと目を閉じると、熱い雫が頬を伝った
こんなに満たされた涙があったんだな…
その時電話が鳴る音が聞こえた
「もしもし」
相手はなかなか声を出さない
「もしもし?」
『…紺、か?』
「!」
その声を聞いた瞬間、僕の唇が軽く震えた…----
***
紺君…遊園地で嫌じゃなかったかなぁ
子供っぽいとは思ったけど、つい、正直な希望を言ってしまった
どうせ、見抜かれてしまうだろうし…
まだ待ち合わせの時間までは結構あるけど、つい小走りになる
「…あっもう来てる…」
チケット売り場の列の近くに、チェック柄のポロシャツを来た紺君が立っていた
さらさら流れる色素の薄い髪の下から、どこか幸せそうな顔が見えた
どうして紺君の周りだけ、鮮やかに見えるんだろう…
私がぼうっと見つめていると、気付いた紺君が手を振った
慌てて手を振り返し、走り出す
「紺君いつ来たの?結構待たせちゃった?」
「ううん。さっき来たばっかりだよぉ」
いかにも恋人同士という会話についにやけてしまう
「どうしたの、杏子さん?」
「いや、あっ入ろう!」
赤くなる顔を隠してチケット売り場に向かった