二個目の苺〜ビターチョコ〜-5
ある日僕の部屋をノックする音がして、扉を開けると誰かの手に押された
訳も分からない内にジュン君は僕に馬乗りになって、僕を殴った
今にも泣きそうな顔で殴り続けた
その時、気付いたんだ
僕は知らない内に彼から奪ってしまっていたということに
翌日、僕の腫れた顔を見ても、伯母さん達は何も言わなかった
きっと、全部分かってたんだろうね
分かってなかったのは僕だけだったんだ
ジュン君だけじゃなくて、この家の人はみんな僕を疎ましく思っているんだと、初めて気付いた
すぐにサッカー部を辞めて、成績もジュン君よりも上にならないようにしたけど、そういう意図的な行為が余計に彼を傷付けた
どこにいても居づらかった
学校やどこかの道端さえも僕がいることを許してくれなかった
中三の終わりに、東京の高校に行きたいって伯母さん達に言ったら、喜んで資金を出してくれた
早く独立して一人で暮らして、食べて行きたいと思ったから、東京が一番良かった
さほど遠くもなかったしね
ここ、東京に来て、何かキャラクターを求められているのを感じて、容姿に似合った振る舞いをするようになった
ある程度の個性があれば、人は無関心でいてくれた
僕は、ただ何も考えないようにした
二年前、二学年先輩の愁にバイトでいいから一緒に喫茶店をやらないかって誘われたんだ
時給を聞いたら変に高かったから、何か妙な気はしたけど、出来るだけ自分の力で生活したかったから引き受けたんだ
案の定あんなサービスがくっついてきたけど、もうそんなことぐらい何とも思わなかった
むしろ、最初の頃はダイレクトに求められている感じがして嬉しかったよ
でも、すぐに気付いた
僕を指名する人たちは、僕がキャラクターに合わない行動をすると、不満そうな顔をする
それでも、僕を必要としてくれることは嬉しかった
だから、出来るだけ喜んでもらえるように、イメージを壊さないように振る舞った
だけど…いつもなんだか虚しくて、どんどん偽物が厚くなっていっちゃった」
紺君は少し寂しそうに笑ったあと、お茶を一口飲んだ
私は何か言おうと口を開いたけど、何も言えなかった
紺君は私を見てにっこり笑って手を握る
「そういう時に、杏子さんの目に気付いたんだ」
私は紺君の言葉に顔を上げる
「杏子さんは僕を真っすぐ見てた
慰めるような憐れむような目で、見てた
すぐ分かった。この人は僕を知ってるんだって
分かっていて、受け入れてくれる人だって
…なのに、杏子さんなかなか来てくれないんだもん
待ちくたびれちゃったよ」
紺君が穏やかに微笑み、私は涙が出そうになる