二個目の苺〜ビターチョコ〜-3
「紺君…時々すごく大人っぽい顔をするよね」
「そう?」
「うん。なんだか、何かを諦めたような、寂しそうな顔…」
杏子さんはそこまで言ってはっとしたような顔をし、黙ってしまった
「どうしたの?」
「…ごめんなさい
私、こんなこと言うつもりなかったのに…」
謝る杏子さんの手をぎゅっと握る
「僕、今日は全部話しに来たんだ
聞いて…くれる?」
「紺、君…」
僕がもう一度声を出そうとしたとき、ガタンと音がして、扉が開いた
「お疲れ様でしたー」
事務的な係員の声で、現実に引き戻される
僕は小さく息を吐いて、笑顔をつくる
「出よう、杏子さん」
…自分から話すと言っておきながら、一度中断してしまうとなかなか切り出せない
本当は過去のことなんて、口に出したくない
自分にも他人にもごまかしていたことだから
一生知らない振りをしていたかったけど…
…僕は杏子さんに出会ってしまった
初めて僕を真っすぐ見つめてくれた彼女に、全てを話したい、聞いてほしい
でも、出来れば言葉に出したくない…
「あ、あの紺君」
「何?」
僕は笑顔を作って振り返る
「私一人暮らしだし、明日も休みだから、うちならゆっくり、ちゃんと話せるよ」
いつもこうやって、僕の背中を押してくれる
「あと、その…
…無理して笑わないで」
いとも簡単に、僕を見つけてしまう
「ありがとう、杏子さん」
僕は笑顔を作らなかった
彼女が笑ってくれたから