夏の終わりに Last-9
あれから3日が過ぎた。
「…ハァ…ハァ…ハァ…」
夕方。私は風呂場で自慰に耽っていた。
「…はっ!…ああっ!」
勢い良く飛び散る白い液。大きく乱れた呼吸を整える。
篠原と出会って、快感無しにいられなくなってしまった私の身体。はけ口として自慰に耽っても、一時の快感だけで心は充たされない。
夕食を終えた私は家族との会話もそこそこに、悲しさを堪えて自室に戻った。
明日の準備にとグラブを磨いていると、愛理が入って来た。
「何だ?もう、おまえとはやんないぞ」
私は、わざと強い口調で言い放った。
「…そうじゃないよ。篠原って先生から電話」
「先生が…?」
(…オレが行かないモンだから、自分の絵が完成しなくて困ってるんだな…)
頭が整理出来ない私は、少しひねくれた考えを持っていた。
「どうする?もう寝てるって言おうか」
「…イヤ、出るよ」
私は階下の電話口に出た。すると、受話器からは涙声が聞こえた。
「…ショウ君、怒ってる?」
嗚咽混じりの声に私は驚きを隠せなかった。以前、酔った勢いのような謝罪は受けたが、あの時とは明らかに違う真剣さが受話器越しに伝わってくる。
「ねえ!何か言ってよ」
驚きで無言の私を、彼女は勘違いしたのだろう。嗚咽はさらにひどくなった。
この時、“私の中の私”が頭をもたげる。
「…分かりました、先生。明日、いつもの時刻に準備室に行きますから」
「…ショウ君…」
篠原は涙声のまま安堵の声を漏らした。私は、周りを伺うと先ほどの言葉を補うように、
「先生には、絵が完成するまでボクの相手をしてもらいますから…」
しばらくして電話は切れた。
私は、先ほどまでの暗い表情からハツラツとした顔で階段を上がる。
「その顔、何か良いことがあったみたいね…」
自室の前にいた愛理が私に問いかけた。
「ああっ!久しぶりにな」
私は、そう言って自室へと消えた。何故、愛理がそんなところに居たのか考えもせずに。