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『お宝は永久に眠る』
【ファンタジー 官能小説】

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『お宝は永久に眠る』-3

「三年だ」
 論文書を懐かしそうに見つめるジェイドに、再びメニールの声が放たれる。
「三年間、お前の顔も、声も、文字すらも見なかった。忘れられてしまったのかと思ったぐらいだ」
 ジェイドを見据えるメニールの声は、単調で無機質ささえ感じられる。
 だが、彼女を知る者ならば、僅かに声が震えていることに気付くだろう。
「……別に、忘れていた、わけじゃ――」
「分かっている。お前が忙しいことぐらい、仕事ばかりの毎日を送っていることぐらい。けど、な。三年間、全く音沙汰もなく、顔を見せるどころか手紙の返事さえ一通も返してくれなかった」
「ッ……」
 弁解を遮られ、伝えられた言葉に怒りを堪える。
 別にメニールに対して怒っているわけではない。自分に対してでもない。
「お前を責めても仕方がないのだろう。それだけ、私が有名になってしまっただけだからな。私もこの三年間で、無茶な稼ぎ方をしてしまったからな」
 ジェイドとメニールの仕事柄、こうなることぐらいは予測が出来たはずだ。
 二人は学業時代の仲でありながら、別の道へと進んだ。
 生きることに不器用で、別のどこかで器用なものを持ち合わせた二人。そんな二人だからこそ、足並みを揃えていられた。
 けれど、二人が進んだ道は反対方向。決して相容れぬ、本来ならば交わることを許されぬ道。
 それがその日に限って、平行線だった道がどこかで曲がってしまった。
「手紙が届いていたなんて、知らなかったよ……。あの人らしい配慮なんだろうけど、余計なお世話ってもんだ」
 行き場のない怒りの矛を収め、肩を竦めて見せる。
「旧縁を懐かしむのはこれぐらいにしよう。お前が私に会いに来た理由はそんなことじゃないのだろ?」
 嘘でも肯定したかったが、長い付き合いだ、既にこちらの考えは読まれている。メニールの問いの後、ジェイドはロングパンツのポケットから一枚の封筒を取り出す。
 旧友また然り、親しき仲にも礼儀はある。
「この通りだ。力を貸してくれ」
 封筒を差し出しながら頭を下げた。
 ジェイドの殊勝な態度に、メニールは久しく作らなかった素っ頓狂な表情を浮かべる。
「これは、委任状か……。まさか、公認で仕事が回ってくるとは思わなかった」
 受け取った封筒を切り、A4紙ほどの羊皮紙に書かれたインクの活字体を眺める。
 顔を上げると、そこには手紙に書かれた内容が不服なのか、見る見る内に曇ってゆくメニールの顔がある。手紙の内容は見ていないため、委任状であることしか知らない。
「私も安く見られたものだな。お前に頼まれればホイホイ着いてゆく尻軽女とでも思っているのか、あの女狐は?」
「何が書いてあるんだ? 依頼料が少ないのなら、俺から掛け合ってみるが……」
 心配になって口を開いてみるも、ジェイドの懸念とは異なるらしくメニールは羊皮紙を机に放り出して立ち上がる。
「まぁ、強ち間違いではないのだがな。三年ぶりだ、久しく溜まっていたものの慰み者になってもらおうか」
「はぁッ? お、おいッ、何をするつもりだ!」
 ご機嫌斜めかと思っていれば、今度は不敵に笑いながら近づいてくるメニールに気圧されついつい後退ってしまう。
 ランプの明かりが二人のシルエットを作り、微かに吹き込んでくる風が赤褐色のストレートヘアーを揺らす。後退りながらも机に阻まれたところで、メニールに双肩を掴まれて捕らえられる。
「そ、それは拙いだンッ――」
 そして、メニールの意図を察した口を彼女の口で塞がれる。
 雰囲気もへたっくれもなく長く口にしていなかった、愛する女の味が口内へ侵入してきた。
 例え委任状を届ける勅使としてここへ訪れたとしても、久しく行為に及ぶことまで考えてはいなかった。メニールの唐突な行動に度肝を抜かれたジェイドは、それ以上の抵抗を見せることも出来ずされるがままとなる。


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