酔芙蓉(すいふよう)に酔い痴れて 〜結花編〜-4
「ごめんなさい…」
そう呟いて、美咲を抱きかかえ、急いでその場を離れる私は、まるで、一糸まとわぬ姿で、死刑台に上がる死刑囚のような身を切られるような辛さを背中で感じていた。
そんな、罪深い女の唯一の救いは、彼が追ってこなかったこと。
私が彼の部屋から出て行った時も、彼は追っては来なかった。
それが、彼の優しさだってことが、今は痛いほどよくわかった。
「ママ…泣いてるの?」
美咲が心配そうに覗き込む。
「ママ、泣いてなんかないよ」
そう言って、美咲を見ると、ポケットから取り出した小さな塊を私の前に差し出した。
「酔芙蓉の花びら…?コレ、どうしたの?」
『はい、これ、ママの分ね。あのね、あのお兄ちゃんね、美咲が『この花、ママが好きなの』って言ったら『僕の好きな人もこの花が大好きなんだ』って言って、お兄ちゃんが持っていたお花の花びらを二つくれたの。『ひとつ、ママにあげてね』って。だから『美咲もこのお花大好きだよ』って言ったの。そしたらね…」
立ち止まって、娘の顔を見た。
「そしたら?」
「『じゃあ、君も、君のママも僕と一緒だ。ニタモノドウシだね』って笑ってた」
「……」
バカね…似た者同士だなんて。似ていて当然なのよ、隼人。
「ママ?やっぱり泣いてる」
頬を伝う涙を、小さな手が拭う。
その暖かさが、さっき私の頬に触れることのなかった、あの懐かしい手のひらの温もりを感じさせる。
あなたを失う代わりに、誰にも言えないほどの、重い重い罪を犯し、手に入れたあなたの温もりが今、この子の中で息吹く。
ニタモノドウシ…
あなたは永遠に知らない
私の手の中で、ずっとこうしてあなたが生きていくことを……