今夜、七星で Yuusuke’s Time <COUNT1>-7
「今日は金曜だ。いつもの加瀬なら浮かれてる金曜だが?」
「まだテンション上がんないだけですって。……いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」
これ幸運、と来店した客につく。確かに未消化な気持ちが胸を燻ってる。
樹里さんとうまくいってないわけじゃ無い。
金曜はラストオーダーまでいるし、楽しく喋って飲んで笑って。
仕事終わってから寝たり、珈琲だけで帰ったり、マンションまで送ったりして至って普通。
多少乗り切れない時もあるけど、曖昧に笑って何でもない装いを突き通した。
あれから数週間。
ブーツにコートを纏い、寒さの厳しくなってきた。
霜月も中旬、である。
「あっれー? 今日椿さんだけですか?」
霜月金曜、夕方七時。
暖まってきた店内で見知った顔を見つけた。
樹里さんと何度か一緒来た椿さんだ。
「今日は樹里、ちょっと遅れるんです」
「樹里さん遅いのかぁ。…じゃあ、今夜は椿さん…俺とどうですか?」
ちょっと遅れる、その言葉に揺れなかったわけじゃ無い。
平然と軽口を叩いたが少し安堵してる自分がいる。
樹里さんなこと、嫌いじゃないけど。
最近、樹里さんとの温度の差を感じていた。
一杯目はキール・ロワイヤル。
樹里さんの定番を従順に繰り返す椿さんに笑いが込み上がる。
真面目な椿さんは肩肘張っているが、一生懸命七星に馴れようとしている。
もっと楽にすればいいのに。
男達の視線が女一人の横顔を追っている。
確かに綺麗な顔で清楚な見た目の椿さん。真面目だしガードはガチガチに固い。
愛想も無いし可愛いげも見当たらない。
難攻不落な高嶺の花。
こういう面倒な女、ホントは許容範囲外なんだけど。
難攻不落って言われると落としたくなるのが俺の性、なんだよね。
今は誰でもいいから夢中になれる玩具が欲しいんだ。
「お待たせしました」
真っ赤なキール・ロワイヤルをテーブルに置くと、弾かれたように見上げ、何を気に入らないのか睨み付けている。
ホント、変な女。
「…この店で初めてですよ、俺のこと睨んでくる女性客。殺意こもってるもん」
「ほんっと、遊び人なんですね」
ふぃっと横を向き、眉間にシワを寄せる。
マジで潔癖なんじゃね?
別のテーブルやカウンターの女性客に体を寄せて笑うだけで刺さるような視線。
面白い女。
からかうだけで本気で突っ掛かって来て。
悪戯、したくなる……だろ?