今夜、七星で Yuusuke’s Time <COUNT1>-3
「カッコイイとこ見たいな。あたしの友達、椿にもイイトコ見せて?」
隣の白い顔の女が訝し気に俺を見る。綺麗な顔をした女だけど、種類が違うっつーか、俺とは世界が違う女だと直感した。
でも、一応樹里さんの友達だからね。
「りょーかい。じゃあ後でご褒美ね」
カウンターに入ると待ってたと言わんばかりに八代さんの指示が飛ぶ。
5年もバイトでここにいて、バーテンの仕事も携わってきた。
数あるアルコールと食材を混ぜ合わせ新しいモノを作るという作業は、音楽の次に俺を夢中にさせ、引き付けて止まない。
同じモノを同じ様に作っても、八代さんと俺とでは全く異なっていて、八代さんのを好きな人もいれば、俺のを好きな人もいる。
カクテルは個性、千差万別の飲み物だ。
樹里さんの視線を感じる。カウンター越しではないが、テーブル席から無遠慮に見つめてくる。
樹里さんはバーテンの俺が好きだと言う。
そのままここで、みんな見ている前でセックスしてもいいくらい魅惑的だといつも言う。
薄暗い店内。
甘いカクテル。
緩やかに流れる音楽。
囁き合う声すら心地いい。星々の様に光り輝くお姉さん達。
なんて愛らしいのだろうか。
ギムレットをこれからシェークしようとする八代さんと目が合う。"お前も振れよ"そう笑っていた。お客さんを楽しませるのが好きな人だ。
仕方なく急いでラム、ライムジュース、グレナデン・シロップを加えてシェイカーをスタンバイさせた。
向かい合ってシェークを開始する。五回振った後、お客さんに笑いかけ、ターンして背中を合わせる。
軽くお酒の入った八代さんは陽気で、カウンター越しの客が歓声を上げるのを喜んだ。
適度に十五回。五年近くカウンターで仕事をすると息も自然と合ってしまう。
ほぼ同時にフィニッシュを決め、用意しておいたカクテルグラスに一気に流し入れる。
「どうぞ」
「どうぞ」
二人の声が重なる。
スッと出したコースターにグラスを置くタイミングまで重なると、ちょっと決めすぎて照れる感じもあるが、客には大ウケでテーブルからも声が上がっていた。
八代さんが作った白く尖った印象のギムレットと、俺が作ったグレナデン・シロップでほんのり赤く色づいたダイキリ。
目の前で待っていた女性客は「贅沢!」なんて目元を赤くして喜んでいた。
そんな風に遊んでるのもつかの間、次々とオーダーが重なっていく。
ホワイト・レディ、スクリュー・ドライバー、マルガリータ、バラライカ、サイドカー……
背筋を伸ばしてシェークする俺の横顔を、樹里さんの甘い視線が絡まる。
早く抱きたい。
真面目に仕事をしながら、不謹慎にも今夜樹里さんをどう鳴かそうか、そればかり考えていた。