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争い
【その他 推理小説】

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争い-1

【×月△日 御宅の至宝『白目を剥く青龍』を頂戴致します――大怪盗S】

「至宝『白目を剥く白龍』ですか……大きく出たものですな」
新聞広告を切り抜いて作られた脅迫状を手に、警部は呻り声を上げる。
「うむ、何しろ世界に3つしかない貴重なものだ。至宝と言うに相応しい。
 そして脅迫状が示しているのは明日なのだ」
そう語るのは、まだ若い男。彼こそ今回大怪盗の標的『白目を剥く白龍』の所有者だ。
妙に裾の長い上着の改造制服が風もないのに靡いている。針金でも入っているのだろうか。
「それにしても、この部屋のどこにそんな高価なものが?
 私にはガラクタの山にしか見えないのですが」
そう言いながら足の踏み場に苦労しつつ辺りを見渡す警部。
散らかったアパートの一室には、そこかしこに弁当殻や飲みかけのペットボトルなどが溢れている。
「何しろ貴重なものだからな。そう簡単には見つからんようにしてある」
そう言うと、彼は非常にきわどい衣装の女性のポスターを捲り上げた。傷つけぬよう、慎重に。
するとそこには小さな額縁が隠れていた。なるほど、確かに中には小さな青い龍の絵が収められている。
言われてみれば、箔押しにサインまで入ったこれは貴重なものに見えてくる。
「お話は分かりました。それでは明日まで我々が警備しましょう」
「それは頼もしい。しかし頼んでおいて何だが、本当に宜しいのか?」
「住人の安全を守るのが警察の役目ですからな。それに――」
「それに?」
にやりと笑って、警部は答えた。
「これは私と奴との争いなのですよ。面子をかけた、ね」



警備とは言っても、そもそもが小さなアパートである。
アパート入り口の前に二人、そして部屋の前に一人を配置し、警部は近所に車で待機する。
以前の事件で煮え湯を飲まされていた警部は、一時たりとも気を抜くことはなかった。
――そして、午前0時。
車内で仮眠を取っていた警部は、一本の電話で叩き起こされた。

「警部、奴から連絡が! 至宝の持ち主を出せと言っています!」
「よし、すぐに逆探知だ!」
「そんな機械持ってきてるわけないでしょう!」
「ええい仕方ない、できるだけ会話を引き伸ばしてもらえ!」
それだけ叫び返すと、警部は即座に車を走らせた。

警部が戻ってみると、所有者の彼がアパートから出てくるところだった。
手にはスーツケース。おそらくはあの絵が入っているのだろう。
「待ってください、本当にそれを持っていくのですか!?」
「ああ、ご苦労だった。もう警備は必要ないようだ」
「しかし、奴との取引に応じるのは――」
警部の声に、彼は笑って答えた。



「損をするつもりはない。こちらにも見返りのあるトレードだ」
「……は?」
「トレード、すなわち交換だ。十分な価値のあるレアカードとな」
それだけ言うと、彼は踵を返して去っていった。



「……で、結局ヤツは何も盗んでいかなかったと」
後日、話を聞いた部下に、警部はこう答えたという。
「いいや、盗まれたさ。我々のプライドと、」

そして、あなたの方を向き、

「ここまでの時間だよ」



尚、カードの所有者と警部及び警備員は全員友人同士であり、非番であったことを付け加えておく。


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